双風亭日乗

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2007年8月17日 (金)

日本国憲法第9条と再販売価格維持制度

このふたつは、維持派と改正(再販制は廃止)派の対立図式が似ています。
いずれも現行法(制度)を守ろうという勢力が存在し、それを変えようという勢力が存在します。当たり前ですが(笑)。ここで問題にしたいのは、どこがどう似ているのか、ということです。

憲法9条の場合、維持派は平和主義を唱え、自衛隊の存在がすでに解釈改憲となっていることについて多くを語らず、対米自立を果たすには日本にある程度の武装が必要であることも多く語りません。

一方、改正は非武装中立が対米自立の足かせになっていることや、自衛隊の実態が軍隊である(ちなみに、カンボジアでは首相も含めて、誰もが迷わず自衛隊員を「兵士」と呼んでいました)にもかかわらず、9条のために国際的には軍隊として認められないことの不自由さを語ります。もちろん、この議論を前に進めるためには、戦争自体が大好きなミリタリーオタクのような人が、国防の中枢に入り込まないようにするという前提が必要でしょう。

再販制の場合、維持派は、主に既得権益を手放したくない大新聞・大出版社・大取次であり、全国一律同価格で本や新聞・雑誌・音楽ソフトが買えることの利点を強調します。また、中小出版社などの場合は、廃止すれば大量生産が可能な大手出版社だけが生き残り、少部数を発行する自分らは存続できなくなるというような声があがったりします。さらに、一部の中小出版社から「良書が駆逐される」という声も聞かれますが、それは極端かつ思い上がった声だといわざるをえません(そう訴える前に、「良書って何?」「自分らがつくる本が良書かどうか、どうしてわかるの?」という問いに答えてほしいです)。

一方、廃止派は、多くの他の商品が価格競争をしているのに、なぜ本や新聞など限られた商品だけの再販売価格を維持する制度があるのかという疑問を語ります。新聞については、すでに実質的な割引を末端販売店にさせているし、本であっても生協では割引価格で買えたりします(生協だから割り引いてもよい、という制度自体にも疑問があります)。

以上のような図式を、さらに単純化してみると、こうなるでしょう。

憲法九条

維持派 → 平和主義を貫徹するため憲法9条を守ろう
改正派 → すでに解釈改憲だし、対米自立のためにも改憲しよう

再販制

維持派 → 良質な活字文化を維持するために再販制を守ろう
廃止派 → すでに解釈撤廃な部分もあるのだから、実態に合わせて再販制は廃止しよう

憲法9条にも再販制にも共通している点は、現行法(制度)を守ろうという側が、それを改定(廃止)しようとする側の意見をまともに聞かない、または聞こうとしないということです。改定(廃止)した場合にも、何らかのメリットがあるにもかかわらず、維持した場合のメリットと改定(廃止)した場合のデメリットばかりを強調します。

これが二者間のディベートだったら、それでもいいのかもしれませんが、憲法9条には国民という第三者が存在し、再販制には消費者(読者)という第三者が存在します。「多くの国民が……」とか「多くの消費者が……」と勝手に想定した上で、実際にはその声を聞くこともなく、一部の人だけが議論している構図自体、納得がいきません。

また、現行法(制度)の恩恵にあずかっている側は、デメリットがあってもそこにあぐらをかいて座っていられるという意味では、利権を持っているともいえます。利権というものは、長期で保持すると腐敗してくるものでしょう。ならば、みずからの腐敗に気づくためにも、対抗勢力に対してドアを開き、真剣な議論の場をつくっていくことが重要であるように思うのですが……。

憲法に関しては、国民投票法の成立で、すこし流れが変わりました(これに対して、同法の成立が日本の武装化に直結すると騒ぐのは、国民をバカにしている議論だと思います)。一方、再販制については、大新聞社や大出版社の人たちと、一部のサヨク系出版社の人たちによる、現行制度賛成の声しか聞こえてきません。それでいいのでしょうか?

私自身は、憲法9条については、さらなる真剣な議論を尽くした上、対米追従の継続か対米自立かを十分に考慮して、国民主導の決断をすればいいと考えています。
再販制については、現状のよい部分をなんとか残しながら、すこしずつ廃止の方向で考えていかざるをえないと思っています。

いずれも「あいまい」な結論ですが、結局は維持派と改定派が是々非々の議論をおこない、それを第三者にオープンにして、第三者の意見を十分にくみ取った上で、結論を出すのがよいかと。その結論は、二項のどちらかにはっきり分けられるものである必然性はありません。折衷案だっていいんです。たいせつなのは、憲法議論には国民の意見が、再販制議論には消費者の意見が、しっかりと反映されているかどうかということなんだと思うのですが。

このエントリーは、ウラゲツさんの以下の記事に刺激されて書きました。アマゾンのWarehouse Dealsについては、ご指摘のような問題があるとは思うのですが、再販制自体に疑問を持つ身としては、是々非々で解決していくしかないと思ったりします。

ウラゲツ☆ブログhttp://urag.exblog.jp/6003760/

再販制の議論では、多少のすれ違いがある月曜社のウラゲツさんを、私は尊敬しております。ネームバリューのある写真家のものであっても、なかなか売るのがむずかしい「写真集」というジャンルの本を、出し続けていることについて。良質な人文系の本を出し続けていることについて。そして、書店人のみなさんに、人文書に関する諸知識を啓発されていることについて。

嗚呼、こんなことを書いていると、中小出版社のお偉いさんをやっている面々(団塊世代多数!)に「何をバカなことをいってるんだ、小僧」とかいわれそうですね(笑)。双風舎をはじめたばかりのときに、わざわざ私を呼び出した上で、「君はサヨクなんでしょ?」と確認してきた某出版社のおじさまを思い出します。おじさま、今回は「声を出さなければ何もはじまらない」ということで、ご容赦いただければ幸いです。

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