双風亭日乗

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2007年10月 9日 (火)

みっともないテレビ

昨日、ミャンマーで殺された長井さんの葬儀があったそうです。
私は長井さんと面識がありません。しかし、以前は海外の紛争に興味を持ち、それを日本に伝える仕事をし、戦乱の地に長期滞在した経験のあるものとして、ある程度の親近感があります。
つつしんでご冥福を祈らせていただきます。

さて、昨日の日テレ「ニュースZERO」が、長井さんが亡くなる前に撮影したビデオテープを放映していました。それを見ていると……。

ん~、なんともいえませんね。

放映されたビデオテープによると、長井さんには現地のガイドがついていたようです。
で、長井さんはジャーナリストですから、取材地で起きている騒ぎの前線に立ちたい。そして、デモをする僧侶や住民の姿と、それに対峙する警察や兵隊の姿を撮影したい。

それに対して、ガイドさんは「危ない」といって騒ぎの現場から離れようとします。
そんなガイドさんに対して、長井さんは、

自分はイラクやアフガンで取材した経験がある。
大丈夫、大丈夫。

などということをいっている。
これって、どうなんでしょう。

死者にムチを打ちたくはありませんが、このガイドさんと同じ立場の仕事(ジャーナリストの案内係)をカンボジアでやっていた私としては、長井さん、ちょっと無責任なことをいっているように思えました。

だって、現地のガイドさんは、自分の国で起きている動乱の真っ直中にいるわけですよね。日本を含めた西側のジャーナリストと歩いているだけでも、当局に顔を覚えられたりするなど、彼にはリスクがある。それに、現地の人はまわりの人がなにを話しているのかわかるのですから、その現場がどれだけ危険なのかどうか、外国人ジャーナリストなんかよりもよくわかっているんですよ。

にもかかわらず、外国人ジャーナリストは騒ぎの真っ直中まで案内することをガイドさんに求める。「自分の経験上、ここは安全だ」というような根拠のない言葉を投げかけ、それにガイドさんが応じないとイライラする。日本人にミャンマー軍事政権の問題点を伝えるためには、ミャンマー人のガイドさんをリスキーな状態に置いてしまっていいのでしょうか。私は、それではいけないと思います。

結局、外国人ジャーナリストは取材が終われば帰国してしまい、リスクを与えたガイドさんのケアをするわけでもありません。多くの場合、その場でお金を払っておしまい。なかには、多額の報酬を目当てに、あえてリスクを引き受ける現地の人もいないわけではありません。そうなると、現地の人が仕事を引き受けるのは、自分の責任ということになるのかもしれませんが。

ここで何が言いたいのかというと、そのような外国人ジャーナリストと現地ガイドとの「負の関係性」が露呈しているようなビデオテープを、平気で流してしまう「ニュースZERO」の見識のなさを指摘したいのです。おそらく、ニュースの制作側としては、長井さんが死んだことをさんざんネタにした(みっともない)路線の延長戦上で、日テレだけの独占映像みたいな気分で流したのでしょう。長井さんが命をかけて撮影した映像、ということで……。

またまた、みっともないですね。

あの映像を見た人のなかには、現地ガイドに無理強いをしている日本人ジャーナリストの姿が映されている、と気づいてしまう人もいるでしょう。そんな無理強いは、ジャーナリスト魂のあらわれでも紛争取材の苦労でもありません。ただの無理強いです。

つまり、長井さんが生きているときには、さんざん安い値段でリスキーな紛争地の取材をさせながら、仕事の功績を讃えたり紹介することはほとんどしない。そして、たまたま取材地が話題になっていたから、死んだとたんに長井さんをとりあげる。そのみっともなさは、前回のエントリーで指摘しました。

さらに長井さんをダシに使おうとしたテレビ局は、彼が死の直前に撮影した映像を流す。ところが、その映像には紛争地帯の取材にありがちな、外国人ジャーナリストによる現地ガイドへの無理強いの場面が撮られていた。普通のジャーナリストだったら「醜態」としてさらしたくないような、そんな場面を、テレビは平気で流してしまったんですね。

これでは、みっともないの二乗ですよ、まったく。
テレビはいつまで、長井さんをダシに使うんでしょう。
まあ、ダシに使った報酬が、ご遺族の方やAPF通信に入るのであれば、それはそれでいいのかもしれませんが。


追記… いま、10月9日の朝5時すぎです。本日も朝から、「命をかけて撮影した47分37秒の映像」ということで、日テレは上記の映像を流し続けています(ザッピングしていないので、他の局はわかりません)。

長井さん自身がいくら取材に「命をかけて」も、なんら問題ありません。でも、長井さんが「命をかけて」いることと、現地のガイドさんが長井さんに同意して命をかけたアテンドにのぞむのかどうかは、別の話です。長井さんが死亡時に握っていたビデオカメラが、軍事政権から返却されないというのも別の話(私は返却されて当然だと思います)。

一番おそろしいのは、長井さんが「命をかけて」取材をしたということが美談となり(それはそれでいいと思います)、そのことによって、危険地域への立ち入りを躊躇した現地のガイドさんが、長井さんによる命がけの取材を「妨害した」とか「ヘタレだ」とか思われてしまうことです。上記の映像によって。実際、現地のガイドさんが長井さんの取材の妨げになったといわんばかりのコメントが、ニュースには添えられています。そりゃないでしょう。

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