双風亭日乗

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2007年11月12日 (月)

赤木智弘著『若者を見殺しにする国』へのコメント by 宮台真司

赤木さんの本に対するコメントを、宮台真司さんからいただきました。
以下、全文を掲載いたします。

赤木智弘著『若者を見殺しにする国』へのコメント
by 宮台真司


1990年代以降の東京郊外、あるいは首都圏の端っこ。
そんな地域に漂う空気とその匂いが伝わってきます。

匂いを伝える小説、ならば従来ありましたが、論説は珍しい。
実は赤木氏の論説が「匂いを伝える」こと自体が「問題」を象徴しています。

そう、彼が主題とする若年非正規雇用問題について、匂いに鈍感な論説が多すぎるという「問題」。
匂いに鈍感なままどんなに正論を連ねても、人々は動機づけられず、物事の手当ては見当外れになる。

僕も85年から96年までの十年余り、売買春フィールドワークで北海道から沖縄まで回わりました。
バブル崩壊の翌92年頃、地方が急速に空洞化し始めたこと、背後に対米追従外交があることに気付きます。

対米追従を支えるのは、対米ケツナメを右だと考える馬鹿右翼と、護憲平和を左だと考える馬鹿左翼。
右はアジアを敵に回して自立に必要な重武装化のチャンスをつぶし、左は米国軍事力への依存を平和と呼ぶ。

冷戦が終わったのに、対米追従の永続を前提とした権益と利権の鍔迫合いをする政界・官界・財界。
平成不況と対米追従ネオリベ策のダブルパンチで、集権的再配分が滞り、地方が著しく空洞化します。

本来なら――欧州がそうであるように――「閉ざされた談合主義」から「開かれた談合主義」へのシフトが必要なのに、
騙された国民は「談合主義(再配分主義)」一般がイケナイのだと思い込み、対米追従ネオリベ策に喝采しました。

取材を通じて、空洞化した地方都市で売買春する主婦や女子高生が漂わせていた匂いはどんどん強くなるばかり。
なのに、匂いに鈍感な「左右の識者」が規範や道徳を唱えていましたが、こうした糞野郎は増えるばかり。

「匂いに鈍感な糞野郎」が正論を唱える中、本書の正誤を逐条的に議論しても仕方ないでしょう。
この本で「匂いに鈍感な糞野郎」の存在が実名を挙げて暴露されていること、それが最も重要だと思います。

『若者を見殺しにする国』。
僕はこうした「匂いを伝える論説」を心から愛し、匂いに鈍感な馬鹿右翼と馬鹿左翼を心から憎みます。

(2007年11月12日)

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赤木智弘著『若者を見殺しにする国』へのコメント by 宮台真司:

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満を持してと言うよりは今更な気がしないでもないが、 宮台真司氏が赤木論文に対するコメントを出されておられる。 「赤木智弘著『若者を見殺しにする国』(双風舎)へのコメント」 http://www.miyadai.com/index.php?itemid=579 今更と嫌味を言うのは内容が余りに凡庸だか... 続きを読む

受信: 2007/11/12 22:16:20

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若者を見殺しにする国―私を戦争に向かわせるものは何か    最初読み始めたとき、「やっぱり素人だこりゃ」とか「だから何が言いたいの?」って思って読んでいたけど、第4章に入ったくらいから著者が言っていることが理解できるようになった。  まあ、第4章が本...... 続きを読む

受信: 2007/11/30 22:11:22

コメント

こんなところで発言するのはとても勇気がいることです。それでも思い切って言わせてください。

>バブル崩壊の翌92年頃、地方が急速に空洞化し始めたこと、背後に対米追従外交があることに気付きます。

地方の空洞化ではなく、地方の貧窮化だと思います。または殺伐化でしょうか。
もしくは釜ヶ崎化とか部落化とでも言ったほうがよいでしょうか。

>空洞化した地方都市で売買春する主婦や女子高生が漂わせていた匂いはどんどん強くなるばかり。

要するに出口が見えなくてヤケになっている、いや単にやけっぱちになることも許されない閉塞があったという解釈でもよろしいでしょうか?

>この本で「匂いに鈍感な糞野郎」の存在が実名を挙げて暴露されていること、それが最も重要だと思います。

同意します。赤木さんをナメたり忌み嫌ったりしている人たちは、あまりに海外志向すぎて、日本の現実をちゃんと観察できていないと思うのです。
また、知識ばかりで感情がないというのか、客観は見えても主観は分からない、そのほうがステージが高いみたいに思い込んでいる鈍感な連中ではないかと自分も考えています。

映画監督2人は論外だった。人を正しく教え導こうとする社共もウザかった。
鶴見俊輔にいたっては、旧華族の後藤新平の孫で、華麗な閨閥につらなる家筋のくせに何を言っているのかと。
いったい安倍とどこが違うのかわからない。

投稿: ワタリスライム | 2007/11/12 22:16:44

貧乏くじを引かされた人間に責任を押し付ける前に
貧乏くじを社会に垂れ流しておいて責任を取らない人間を問題にすべきですね。
でも、ほとんどの場合、責任を垂れ流した人よりも貧乏くじをとらされた人のほうが
味方少ないですよね。力ないですからね・・・。
力ある人たちは暴力はいけないだとか
戦争はいけないとか言ってれば問題解決だけど。
たしかに暴力も戦争もいけない。でも、暴力や戦争だけが悪いわけじゃない。
責任とるべきところで責任とらないのも問題だ。
無責任の連鎖ですかね〜。

でもこれって丸山真男が言ってたことと同じじゃないのか?
知らないけど・・・。
だったら赤木智弘さんの論旨にひっぱたかれる丸山真男も赤木さんの論旨に賛成するだろうと思うんだけど。

説教するなら職をくれ!
僕はもう少し若いので

説教するならコミュニケーションスキルくれ!
そんなの学校で習ったことないぞ!
なんで教育改革をもっと早くしなかったんだ!
オレんちはろくに歯の磨き方も箸の持ち方も教えてもらえなかったんだよ!コノヤロ〜プンプン(><)
もう一つ、なんでそんなに自信がないんだ!と自信がなくなるようなこと言うな!というよりも、自信がなくて本当は震えてるおまえにだけは言われたくない!
数が多けりゃ安心なのか。意見が同じというよりも利害が同じだけなくせに。
てか、自信とコミュニケーションスキルが
向上したときにはすでに這い上がれないところまで落ち込んでたりするんだけど・・。
なんだこの連鎖は!!
え〜実に切ないです・・・。
え〜長くなりました。こんなところでこんなこと書いて
恥ずかしい限りです。

投稿: 竹内よし子 | 2008/05/21 17:01:55

赤木さんの考え方は管仲の衣食足りて礼節を知るや、
荀子の性悪説に似てますね。
当たり前のことを言ってると思うのですが、
道徳ばかりを主張し、何故道徳が破られるのかに
知らないふりで済ます儒家のような左右の方々とは
相容れないでしょう。

投稿: | 2011/04/16 1:25:05