双風亭日乗

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2008年1月30日 (水)

あなたは誰?

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携帯の出会い系サイトで男性と知り合った女性が、勤務先のカネ(1億3000万円以上)を盗んだうえで、そのカネを男性に送金していた、というニュースが報じられました。ふたりは窃盗罪で逮捕。なんと5年間の交際中、すべてのやりとりが電話とメールでおこなわれ、ふたりが直接会ったことがなかったんですね。

このニュースを聞いて、まっさきに思うこと。それは、女性はなぜ、男性が直接会ってくれないのかという疑問を解消しなかったのかなあ、という点です。あるワイドショーによると、男性はジャニーズ系男性の写真をコピーし、それを自分の写真だと偽って女性に送っていたそうです。女性の側にもいろんな事情があったんでしょうけれど。

この男女は、逮捕後に裁判所ではじめて会い、女性が大金を貢いだ男性を見て、送られた写真の顔とまったく違うことを知って、がっかりしたんだそうです。落語のネタに使えそうなオチじゃありませんか。

さて、まるでこの事件の報道を予期していたかのようなエッセイが、「週刊文春」1月31日号に掲載されています。それは、我が心の師・中村うさぎさんの「さすらいの女王」という連載で、タイトルは「若者たちの嘘」。

中村さんは「出会い系サイト」をやっているが、相手の男性が「年齢や職業や名前を偽るのは理解の範疇内」たとしながら、「まったく別人の写メを送ってきたりするヤツがいる」ことが信じられない。そりゃそうですよ。だって、写真の嘘は、会った瞬間にバレるじゃないですか。

男性らが、「どうせ一度きりしか会わない」し、「女性は押しに弱い生き物だから、会ってしまえばヤラセてくれるかもしれない」と思う気持ちも、中村さんはわからないではない。それでも、詐欺写メを送った相手に会ったときに、相手が見せる失望の表情を見たり、冷たい態度をとられたときに、その男性は「傷つかないでいられるのか?」という疑問が残る。彼らの「心がマヒしているのだろうか?」。

さらに、中村さんの経験からいうと、「詐欺写メを送ってくるのは圧倒的に若い世代」であることから、詐欺写メを送ったあとの結果にクールな気分でいられるのは、世代格差なのではないかという。「彼らにいわせれば、しょせん嘘や隠し事ばかりで構成されている出会い系サイトなんかで、馬鹿正直に事実を深刻する人間のほうが非常識」なのではないかと、中村さんは彼らとのズレを想像します。

仮にそうだとすれば、彼らは何者に出会っているのか。そんな疑問を提起したうえで、エッセイには以下のような文章がつづきます。おもしろいので引用します。あの中村さんが、エヴァをネタにしているのにも注目です。

女王様は正月に、友人からアニメ『エヴァンゲリオン』を全巻、ぶっとおしで観た。アニメの中の主人公の少年は「本当の僕って何なんだ?」と、ずっと自問自答していた。「本当の自分」なんて幻想に過ぎない……それは確かにそうなんだが、だからって我々は、自分とは似ても似つかぬ別人にはなれないのだ。それを「アイデンティティ」と呼ぶワケであるが、出会い系サイトの若者たちを観ていると、その「アイデンティティ」するユラユラと陽炎のごとく不確かに揺らいでいるような気がする。
「あなたは誰?」と、女王様は彼らに呼びかける。写真すら別人のあなたは、この世に存在するの? あなたは、自分が誰だかわかって生きているの?
(「週刊文春」1月31日号、p73)

冒頭で紹介した事件と中村さんの話、すごくかぶりますよね。若者に限らず、いまの世に生きる人びとの「アイデンティティ」の揺らぎに関しては、かねてからいろんな人が指摘していました。しかし、それを「出会い系」と「エヴァ」でつなげる中村さんの思考が、私にはたまらなく興味深い。

こんな話になってくると、「じゃあ、なんでアイデンティティが揺らいでるのよ」と思う方も、当然いることでしょう。これに関しては、人から聞いて、簡単に理解できるようなものじゃないでしょう。自分でじっくり考えてみることが重要です。これを書いている私自身、それが揺らいでいないとは、けっしていえませんし。

日乗 | コメント (3) | トラックバック (0) |

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あなたは誰?:

コメント

 ほとんど会わないのに、男の借金の肩代わりをしていたというウェブ恋愛のケースを取材したことあります。

 また、一度も会ったことないのに、恋人と言っていた男女も知っています。2人はセックスをチャットでしていたので、性的な満足を得ていた、と。

 いまは、会う・会わないは、性癖のひとつになりつつあるのかもね。

投稿: 渋井 | 2008/01/30 11:04:33

渋井さん、ごぶさたしてます。「会う・会わないは、性癖のひとつ」って、すごい話ですよね。考えてみれば、私なんかも、ただ単に直接会ったほうが楽しいから会うわけです。よって、直接会うのが楽しくなくなったら、「会わない」という選択肢もありえるのかもしれません。いまのところ、そんなふうには思わないけれど。

投稿: lelele | 2008/01/30 15:36:20

 「直接会ったほうが楽しいフェチ」なんですね、とそのうち言われるかもしれませんね。最近では、二次元か三次元かが話題になりますが、会う・会わないも話題になるかもしれませんよ。恋愛のカタチは、時代とともに移り変わりますからね。メディアによっても影響されることもあるので、いまはネットもケータイもあるから、どんどん変わっていくでしょう。

投稿: 渋井 | 2008/02/07 16:27:05