双風亭日乗

« 毎年、やってくれますね~! | トップページ | ネット規制といじめ »

2008年4月 5日 (土)

映画『靖国』上映中止について

20070716185345
いまやネットを見わたせば、極右から極左、学術論文から無修正エロ画像まで、さまざまな映像や画像、そしてテキストに出会います。極端なもの、つまり出る杭を打つために、「映倫」とか「ビデ倫」とか「ジャスラック」といった、映像やらテキストを「管理」するところもあるようです。

しかし、そんな「管理」はどこ吹く風で、じつのところ、誰もが、もはや「表現は何でもありなんじゃないか」と心の奥で考えつつ、観たり読んだり聴いたりしているんじゃありませんか。

そんな何でもありの状況下で、党派性が強かったり、宗教色が強かったりする映画を公開しても、それは多くの人にとって、山ほどある選択肢やコンテンツのなかのひとつでしかないでしょう。映画を観て、思想的に共鳴し、運動にコミットしたり宗教に入ったりする人なんて、どれだけいるのでしょうか。ほとんどいないのでは。

もちろん、身体を極限の状況にさせてから、同じ作品を何度も見せるなど、洗脳に近いかたちでそれを見せれば、見た側にもそれなりの影響があるでしょう。でも、そんなのはレアなケースであり、一般的には「表現は何でもあり」という状況下で、「選択肢のひとつ」として、映像や画像、そしてテキストなどと出会うものだと思います。

前置きが長くなりました。以上のような前提でリ・イン監督のドキュメンタリー映画『靖国』の上映中止問題を考えてみましょう。

この上映中止は、ある国会議員が検閲の申し出をしたことに端を発します。「この映画にあまりいい印象を持っていないある議員(谷川注…稲田朋美衆議院議員)が、作品を観たいといっている」と、文化庁経由でフィルム配給会社アルゴ・ピクチャーズに電話が入ったとのこと(「週刊金曜日」2008年4月4日号)。

国会議員が、この映画は内容が気に入らないから事前に観せろ、っていう時点で、観せろといった本人がどう思ったとしても、これは検閲ということになるでしょう。「週刊金曜日」でも指摘されていましたが(同誌、11頁)、この検閲の流れは、従軍慰安婦問題を番組化したNHKが、放映前に前首相ら国会議員に番組を観せたときと、ほとんど同じです。

今回の『靖国』では、稲田議員らが映画制作に支出された助成金にいちゃもんをつけるなど、検閲後に作品の内容を問題視しました。その結果、右翼などからの嫌がらせを予想した映画館側は、『靖国』の上映を中止したんですね。NHKの場合は、検閲させた国会議員が納得するような内容に、番組を改変したうえで放送しました。

『靖国』の例にも、NHKの例にも、共通していえることがあります。それは、検閲した国会議員も、上映を中止した映画館も、上映予定の映画館に抗議の電話を入れる人や映画館のまわりをうろつく右翼街宣車も、とどのつまりは映像を観る側をバカにしているということです。

このふたつの問題についてマスコミは、「党派」とか「思想」の問題として、エキセントリックに伝えることが多いようです。しかし、そんなの関係ないでしょう。繰り返しますが、私たちは、これだけ多様な映像や画像、そしてテキストが出回るなかで、日々それらに接し、取捨選択しています。それぞれの人が、それぞれの基準で、自分が何を観たり聴いたりするのか決めています。

にもかかわらず、「『靖国』の上映は問題だから中止しろ」というような考え方や意見が出てくる。それって、「『靖国』を観た人は、「反天皇」とか「反靖国」になってしまうから、観せないほうがいい」といっているのと同じですよね。つまり、「お前らは映像に影響されやすいから、ちょっとバイアスのかかったものを見せると、すぐに信じてしまう」という前提があるから、その手の映像は観せないという方向に話が流れていくんだと思います。

ようするに、タカ派の国会議員らが、特定の映像作品を「観せないほうがいい」なんて危機意識を持っていること自体、時代遅れかつナンセンス、そして映像を観る私たちをバカにしている振る舞いだと私は思うのですが、いかがなものでしょうか。

そうなると、上映中止に抗議する戦略として、「党派」や「思想」を基準にしてしまうと、話が対立するだけで何の解決にもなりません。そういったアプローチで抗議するのではなく、「視聴者をバカにするな!」とか「観客をバカにするな!」といったようなかたちで抗議するほうが、議論から「党派」や「思想」が抜けて、すっきりした戦略になるかと思ったりします。

「党派」や「思想」を基準にして、何は観てよくて、何は観てはいけないのかを、どこかの誰かが決める。そんな振る舞いの愚かさを、『靖国』上映中止問題もNHK番組改変問題も、私たちに気づかせてくれるような気がします。

「あれを観たら、あいつはああなっちゃう」なんて他人に心配されるほど、私たちはバカじゃありませんよ。

日乗 | コメント (1) | トラックバック (1) |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/211225/40769522

この記事へのトラックバック一覧です:
映画『靖国』上映中止について:

» 札幌でも上映できることになった映画「靖国」 トラックバック 札幌生活
何かと話題になっている映画靖国。どうやら苫小牧では上映されるようでホッとした。札幌でも上映されるらしい。だが、国政調査権を持ち出した稲田氏の真意はどこにあったのだろうか。 続きを読む

受信: 2008/04/05 9:06:14

コメント

全く同感です。黙って見せてくれ、の一言ですね。結果的に上映予定の館が、当初予定していた頃より明らかに増えていますから、稲田議員の「検閲」は完全に逆宣伝になりましたね。

ただ、この映画について、ちょっと気になることがあります。国会議員の有村氏がこんな質問をされていたようで、前編はすばらしく香ばしい発言が随所にあるのですが(苦笑)、後編が気になります。取材相手が上映対象の中から外してくれと頼んでいたとか。

■前編
http://plaza.rakuten.co.jp/seimeisugita/diary/200804050002/
■後編
http://plaza.rakuten.co.jp/seimeisugita/diary/200804050003/

この辺、どう扱うかはきっとこれからこの映画に反対する人たちが突いて来るポイントでしょうね。もっとも、この国会議員殿がどういう話をし、どういうニュアンスでこういう話になったのか分かりませんし、何も言えませんが。

投稿: らむ山 | 2008/04/05 15:47:00

コメント書く