双風亭日乗

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2008年8月 6日 (水)

ショッキングな数字

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日本国内における1日の自殺死者数 … 約90人
日本国内における1日の自殺未遂者数 … 推定1000人


日曜の『NNNドキュメント 2008』(日本テレビ系)のテーマは自殺。「自殺企図――精神科医との生きる約束」というタイトルで、愛知県の病院で救命救急を担当する精神科医・赤松拡(あかまつ・かく)さんの活動を紹介していました。

冒頭の数字は、番組の最後に紹介されたものです。つまり、自殺死者数の10倍くらい、自殺未遂者がいるということなんですね。さらに、救命救急をたずねる患者のうち、2割くらいが自殺をはかった人とのこと。そんな状態なのに、救命救急に精神科医が配属されるのは、いまのところ稀なケースなんだそうです。

日本の自殺者が年間3万人以上だということは知っていましたが、「1日の自殺死者数が約90人」という数字にはあらためて驚いたし、「1日の自殺未遂者が推定1000人」という数字には、驚きを通りこして薄ら寒さを感じました。「1日の……」ですから。きれい事は言いたくありませんが、自殺したり自殺しようとする人が毎日1000人いる社会って、やっぱりおかしいんじゃないかなぁ。

赤松さんをはじめとする精神科医は、死にたいと思いはじめた人や死のうとした人を、何とかして死なせないようにすることを生業にしています。それはとてもたいせつなことだと思うし、誰かがしなければいけないことだとも思います。とはいえ、なぜ死にたいと思う人や死のうとした人が、1日1000人近くもいるのかということや、救命救急にやってくる患者の2割が自殺関連であるということに、私は疑問を抱きます。

自殺を企てることを、自殺企図と言います。自殺企図に自傷行為を含む場合もあるし、含まない場合もあるようです。当たり前のことだと思いますが、死にたいと思っている人に「死ぬな」というよりも、死にたいと思う以前に、死にたいと思わないような環境をつくることが、自殺企図を減らす一番の薬でしょう。そうなると、死にたいと思わないような環境を、どうつくるのかが問題になります。

私は専門家でもないし、他人のことはよくわからないので、自分のことを書きましょう。私も「死にたいなあ」と思ったことはあります。経済的に厳しくなり、身内のバックアップも期待できず(というか、もともと親キョウダイはいません)、離婚により家族がはなれていき、アパートを借りようとしたとき、保証人になってもらえる人がいないと気づいたときでした。ひとりになってみると、自分には生きるためのセーフティーネットのようなものがないんだなあ、としみじみ感じたんですね。

もちろん、実際にアクションは起こしませんでした。しかし、ほんの数日、心の中でそんなことを思っていました。そんな状態から抜け出せたのは、死にたいと思ったことも含めて、すべてをぶっちゃけで話せる友人の存在があったからです。問題をひとりで抱え込んでいると、ときにはぶっちゃけで話せる人の存在を忘れちゃったりします。思い悩むのに必死になり、その思い以外は考えられなくなっちゃうんですよね。でも、思い悩んでるうち、急に思いついたんですよ。「そうだ、あの人に相談してみよう」と。

そもそも私には、あまり友人がいませんし、増やそうとも思っていません。べたべたした人付き合いがめんどうなのと、けっこうひとりの時間が好きなのがその理由です。だから、友人といっても、こっちが会いたいときと向こうが会いたいときだけ、ピンスポットで会うことが多いのです。そのかわり、会ったときには何でも話しますし、どちらかが困っていれば、できる範囲で助け合えるような関係です。

で、そんな友人のひとりにすべてを話したら、けっこうすっきりしたんですね。まじで。話したからといって、すぐに困難が解決されるわけでもありません。しかし、私のパーソナリティをよく知っているからこそ客観的に述べられる友人からの率直な意見は、励みにもなったし参考にもなったんです。その後、何となく前向きな気分になれて、現在にいたるわけです。

そんな経験からいえることは、死のうとまで思うような悩みを、ひとりで抱え込まないようにするということが、死にたいと思わないような環境をつくることの、ひとつのヒントだということです。きっと、そんなことは、専門家やNPOの人たちがいっていることなんでしょう。それでも、あえて言いたいですね。「ひとりで抱え込まないでね」って。

自殺未遂者が推定1日1000人もいるということの意味。それは、話し相手がいなくて(いても役にたたなくて)、悩みをひとりで抱え込んでいる、言い換えれば悩みをひとりで抱え込むように囲い込まれている人が、推定1日1000人もいるっていうことなのでは。そうなると、誰が囲い込んでいるのかが問題になります。もちろん、自分で囲い込んじゃう人もいるでしょうけれど、友人や親族、会社、そして社会などが囲い込んでいる場合もあることでしょう。

私個人の印象でいえば、社会による囲い込みがもっとも多いと思うし、残酷でもあると思います。それはそうですよ。自殺者が2004年に年間3万人以上となったことに関する小泉純一郎元総理大臣のコメントが、「悲観することはない。がんばってってほしい」ですから(2004年7月23日の記者団に対するコメント)。それこそキムタクが演じた朝倉総理みたいな人が政治家になり、力を持たないと、自殺対策に関する政府や行政の無策はつづき、囲い込まれてしまう人も一向に減らない状態がつづくでしょう。

何でも話せる友人をつくれ、なんて無責任にはいえません。いろいろやっても、なかなか友人ができない人もいると思いますし。そういう人に「友人をつくれ」ということ自体、悩みをひとつ増やしてしまうことになりかねません。でも、友人でなければ同僚でもいいし、父母でもいいし、キョウダイでもいいし、同級生でもいい。自分が持っている人間ネットワークのなかから、何となく気の合う人を見つけておく。それが、「死にたい」と思わない環境づくりの第一歩なんじゃないのかなあ、と思ったりしました。

この件については、自殺にくわしいジャーナリストの渋井哲也さんに、ぜひとも意見を聞いてみたいところです。時間があったら、の話ですが。

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コメント

 私もその番組、見ていました。論点が多すぎるので、ちょっとだけ。

 番組内では、自殺したひとのうち、3割しか精神科に通っていなかった、などの解説があったように思います。これって、精神科に通えば、自殺しない、と言いたかったのだろうと思います。

 しかし、私が取材をしていた人で、実際に自殺した人で、精神科や心療内科、あるいはカウンセリング機関に通っていた人は100%です。通院すれば、自殺を防げるというのは、現状を把握してないのだと思います。

 ちなみに、NPO法人自殺対策支援センターライフリンクの遺族調査では、自殺した人がひと月以内に相談機関に通っていたには62.4%。このうち、精神科は67%。精神科に通っていたのは4割ということになります。

 先進国でトップの自殺率ですが、おそらくそれは「文化」的なものが影響しています。死んでわびろ、というやつです。しかし、1997年までは、年間自殺者2万人台だったのが、98年に3万人台になりました。それ以降、10年連続で3万人台を維持しています。それは、文化的構造だけでなく、社会の構造が変わったのだろうと思います。

 私を含めて、すべての人が、結果として、その構造を維持しています。その意味では、私は「加害者」です。セイフティーネットなき、個人責任で終わらせる社会の中で生きる以上、その加担者であることは逃れられません。小泉政権の誕生に加担し、しかも支持率が高かったことを考えれば、自らを追い込んだのは国民自身だった、とも言えます(ちなみに、98年に3万人台になったときの厚生大臣は小泉さんですが)。犯罪を、即、個人責任のみでとらえてしまう志向もその延長線上にあるように思います。

投稿: 渋井 | 2008/08/06 10:35:45

渋井さん、貴重なコメントをありがとうございました!

投稿: lelele | 2008/08/06 16:36:47