双風亭日乗

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2008年8月30日 (土)

志ある青年のアフガニスタンでの死に思うこと

NGO「ペシャワール会」の伊藤和也さん(31)がアフガニスタン東部で銃撃され、死亡しました。テレビの報道は、伊藤さんの功績を讃え、美化するものばかり。死者に鞭を打つ気はまったくありませんが、あまりにひどい報道姿勢に対し、苦言をていさざるをえません。なにが問題なのでしょうか。

まず、アフガニスタンで活動していた伊藤さんが、おもに農業指導というかたちで、すばらしい仕事をされていたという事実があります。行方不明になったときには、現地の多くの人々が伊藤さんの捜索を手伝ったとのこと。いかに伊藤さんが現地にとけ込み、現地の人々から信頼されていたのかを示すエピソードです。

一方で、アフガニスタン情勢は、とくに今年に入ってから悪化の一途をたどっていました。カルザイ政権が実効支配する地域は国土の一部であり、多くの地域はタリバンを中心とする反政府勢力が支配しているという見方は、もはや常識となっていました。つまり、アフガニスタンの治安は、日本人が地方で働くのには厳しい状況であったといえましょう。

ジャーナリストの武田徹さんが「オンライン日記」に書いていますが、いくら現地にとけ込んでいようと、どれだけよい仕事をしていようと、アフガニスタンに滞在する伊藤さんには「日本」というレッテルが貼られます。さらに、「日本」というレッテルには、「アメリカの同盟国」というレッテルが重ねて貼られます。つまり、「伊藤さん=日本=アメリカ」は、反政府勢力の敵である、ということです。

そうなると、反政府勢力が力を持つ地域やその近隣地域で、日本人が活動すること自体、大きなリスクを背負い込んでいることだといえます。治安の悪い地域で活動するということは、そういうリスクをいかに回避できるかを絶えず考えながらおこなうものです。活動する本人が考えるのは当然のこと、本人が所属している団体や組織がアンテナを張りめぐらし、本人に助言するのもあたりまえのことだと思います。

同会の中村哲さんは、陸上自衛隊がアフガニスタンで活動を開始したら、スタッフ全員を現地から撤退させるとおっしゃっていたようです。しかし、それでは手遅れだったということが、伊藤さんの死をもってあきらかになってしまいました。

もちろん、以上の話は、伊藤さんを誘拐し、殺した犯人が一番いけないということを前提にしています。それを前提にしても、現地の治安悪化が進むなかで、伊藤さんの死を回避する方策はなかったのかどうかを考えることは、いま、そして今後、危険地域で活動する日本人がリスク管理をおこなううえで、重要な点だと思われます。

ところが、そういう話がまったくないまま、ただただ伊藤さんが現地ですばらしい活動をしていたことばかりを垂れ流す報道に、私はあきれかえっていました。ようするに、伊藤さんがすばらしい活動をしていたことと、治安悪化に対するリスク管理がちゃんとしていたのかどうかは別物であるということを、しっかり報道する必要があるでしょう。

くわえて、いくらすばらしい活動をしていたといても、反政府勢力の「伊藤さん=日本=アメリカ」というまなざしには変化がないということを報じなければ、「すばらしい活動をしていれば、自分は日本人であっても大丈夫だ」と勘違いしながら危険地域で活動する日本人を増やすだけだと思います。

追いつめられた人が何をするのかなんて、誰にもわかりません。ましてや、風土や文化が異なる国に滞在する場合は、自分がいかに生きつづけながら活動をしていくのかを、何よりも重視して考える必要がありましょう。どれだけ現地の惨状を改善しようと志し、活動を展開しようとしても、死んでしまったら何にもできなくなってしまうのですから。すくなくとも私自身は、カンボジア滞在中にそんなことを考えつづけていました。

最後になりますが、伊藤さんのアフガニスタンにおける活動に敬意を表するとともに、つつしんでご冥福を祈ります。そして、伊藤さんの死が、今後も危険地域で活動する日本人の死を防ぐための方策づくりに役立つことを、心より祈念しております。

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コメント

>「伊藤さん=日本=アメリカ」というまなざしには変化がない〜
本当でしょうか?
アメリカに協力する日本政府のせいで〜という、党派的偏向のステロタイプは疑われるべきです。
真の原因を見誤ります。

■タリバンのムジャヒド報道官

「日本人を殺害した。すべての外国人がアフガンを出るまで殺し続ける」。
「このNGOが住民の役に立っていたことは知っている。だが、住民に西洋文化を植え付けようとするスパイだ」。
「日本のように部隊を駐留していない国の援助団体でも、われわれは殺害する」。

http://www.47news.jp/CN/200808/CN2008082701000946.html

投稿: 失礼します。 | 2008/08/30 21:28:49

なんな為の戦争でしょうか? 誰のための戦争でしょうか? そこを考えないと見誤るのではないでしょうか? 真の原因は戦争そのものだと思いますがいかがですか。 戦争が無ければこのような悲劇は起こらなかったとはいえます。

投稿: セレステ | 2008/08/30 21:59:39

タリバンを生ぜしめたのはソ連のアフガン侵攻ですから、「遠因」を「戦争」に求めるのならば間違ってはいないでしょう。
しかし少なくとも、上記引用に鑑みれば、
>「伊藤さん=日本=アメリカ」というまなざし
は、党派的妄想に過ぎません。
また、国連=ISAFの介入を否定し、タリバンに統治を任せるべきだと言うのはやはり無理があるでしょう。

私は、タリバンへのシンパシーの表明と看做さざるを得ないようなコメント等を繰り返していたペシャワール会代表中村哲氏の、
「タリバンの危険性についての過小評価(事件後も"単純な物盗り"との、結果として誤った見方を披瀝しています)」と伊藤さんの死の因果関係について、より多くの人が考えるべきであると思っています。

投稿: 失礼します。 | 2008/08/31 1:34:17

タリバンの人たちの情報など、それこそ誰にも正確なことなどわからないでしょう。ということは、「党派的妄想」と思うような状況であるかもしれないし、彼らのいくばくかが「日本=アメリカ」と考えている可能性も否定できません。

しつこく書きますが、お書きになったコメントのように、「自分が絶対に正しく、あなたはまちがっている」いう物言いこそが、他者を排除することにつながり、ひいては戦争につながっていく原因になると私は考えています。

世の中で起きていることは、さまざまな人間が複雑にからみあい、思考した結果として、時々刻々と変化しています。数式じゃないんですから、絶対に正しい答えなんてないんです。

投稿: lelele | 2008/08/31 20:02:39