双風亭日乗

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2008年11月27日 (木)

勘違いの連鎖(元厚生次官宅襲撃事件)

元厚生次官宅襲撃事件で逮捕された小泉毅容疑者。「保健所に殺された犬のあだ討ちが襲撃の動機だった」と供述していますが、これは読売新聞で指摘されているとおり、大きな勘違いです。

まず、動物愛護法の所管であり、ペットの処分を規定するは環境省。厚生労働省は、狂犬病予防法を所管するのみ。保健所は、都道府県や政令市によって運営されおり、犬猫の殺処分については各保健所の判断にまかされています。

さらに、小泉容疑者は、もうひとつの大きな勘違いをしています。犬猫の殺処分をやっているのは確かに保健所ですが、犬猫がなぜ殺処分されるのかといえば、無責任な飼い主(ペットショップやブリーダーの一部を含む)が捨てるからです。

したがって、小泉容疑者があだ討ちすべきは、犬猫の命を軽視し、無責任な対応をとる飼い主であり、けっして保健所や厚生労働省ではありません。そもそも、あだ討ちと称して人を殺傷すること自体、許せない行為ですが。

せっかくの機会なので、犬猫の殺処分数が多い都道府県のベスト5をお知らせしておきます。出所は、『世界生物会議(ALIVE)資料集 全国動物行政アンケート結果報告書(平成17年度版)』です。

1位 茨城県
2位 千葉県
3位 福岡県
4位 沖縄県
5位 熊本県

注意しなければいけないのは、殺処分数が多い都道府県の人たちが犬猫をたくさん捨てているのかというと、そうでもないということです。犬猫を捨てる飼い主は、自分の近隣で捨てるよりも、すこしはなれたところで捨てるケースが多いようなのです。

たとえば、東京で暮らす無責任な飼い主が犬猫を捨てようと思う。とはいえ、都内で捨てると目立つし、捨てた犬猫が餌を確保するのがたいへん(犬猫にとっては、捨てるのにそんな気を使われても「ふざけんな!」って感じでしょう)だという理由で、千葉県の九十九里浜などに車で捨てにいく人が多かったりします。

いずれにしても、小泉容疑者が憎むべき相手は、犬猫をお手軽に捨ててしまう無責任な飼い主です。もしそのことに小泉容疑者が気づいていたら、無責任な飼い主にあだ討ちをしたのでしょうか。2006年度に殺処分された犬猫の数は約34万匹。何十万人単位で存在する無責任な飼い主の一人ひとりにあだ討ちするのは、おそらく不可能だったでしょう。

刃物を持ってあだ討ちをする必要はないけれど、犬猫を捨てる無責任な飼い主は、大いに批判されるべきだと思います。そういう飼い主が減れば、保健所で殺処分される犬猫が減り、毎日犬猫を殺さざるをえない行政職員が減り、行政はあまった予算を別のところで有効活用することができるかもしれません。

生き物を生かすにしろ殺すにしろ、重要なのは動物の命に対して最後まで自分で責任を持つ、という姿勢だと思います。生かすにせよ、殺すにせよ、人には責任が生じることから、動物と関わるということにはそれなりの覚悟が必要になるということですね。

覚悟もせず、責任を放棄して、犬猫を捨てる。いらなくなったが、自分では殺したくない。捨てれば、誰かが拾ってくれるか、保健所が殺してくれるだろう……。「子猫殺し」エッセイを書いた坂東眞砂子さんを糾弾したり批判した多くの人たちの力は、本来、そういった無責任な飼い主たちへの批判に向けられるべきものだったのではないか、と私は考えています。

「子猫殺し」に関するお話は、いま企画を準備していますので、そのうちゆっくりしようと思っています。

以下、本エントリーで参考にした記事をコピーしておきます。

「飼い犬殺した厚生省」実は筋違いだった…小泉容疑者「えっ」

 元厚生次官宅襲撃事件で、銃刀法違反容疑で逮捕された無職小泉毅容疑者(46)が捜査当局の取り調べで、「保健所に殺された犬の仇(あだ)討ちが襲撃の動機だった」とする供述に対し、保健所の所管は厚生労働省ではないと取調官に指摘され、「えっ」と絶句していたことがわかった。

 保健所を運営しているのが都道府県や政令市だという事実を「知らなかった」とも話しているという。警視庁と埼玉県警は、小泉容疑者が「自分の飼い犬を殺したのは厚生省」と思い込んだまま、一方的な憎悪を募らせたとみて調べている。

 捜査関係者によると、小泉容疑者は22日夜に東京・霞が関の警視庁に出頭した直後から、「自分の犬を殺したのは、保健所であり厚生省。自分は犬の敵(かたき)を討つために生きてきた」などという供述を繰り返している。

 出頭翌日の23日に山口県柳井市の実家に届いた手紙の中でも、「1974年4月に保健所にチロが殺された。その敵を討った」などとつづり、犬の処分の日付や曜日も書き込んでいた。

 こうした小泉容疑者の主張について、取調官が「あなたの言っていることは筋違いではないか」と指摘すると、それまで「官僚は悪い」などと冗舌に話していた小泉容疑者は「えっ」と驚いた様子で、言葉に詰まったという。
 実際、ペットの処分を規定する動物愛護法を所管するのは環境省で、保健所を設置しているのは、都道府県や政令市などの地方自治体。厚生労働省(旧厚生省)は狂犬病予防法を所管するだけで、犬や猫の処分は保健所の判断に委ねられている。

 同庁と同県警は、小泉容疑者が事実に反した思い込みから一方的な恨みを抱くようになったことが、山口剛彦さん(66)夫妻の殺害や、吉原健二さん(76)の妻靖子さん(72)の襲撃につながったとみている。ただ、少年時代に飼い犬が処分されたという事実と、「歴代厚生次官ら10人ぐらいを襲おうと考えていた」という供述に大きなギャップがあるため、ほかにも動機がないか取り調べを続けている。

(2008年11月27日03時05分 読売新聞)

小泉容疑者、父親への手紙に「チロの敵討った」

 元厚生次官宅襲撃事件で、銃刀法違反容疑で逮捕された無職小泉毅容疑者(46)が山口県柳井市の父親(77)に送った手紙で、少年時代に飼っていた「チロ」という犬を保健所に処分されたことが動機だったと説明していたことがわかった。

 小泉容疑者は22日に警視庁に出頭してから「犬を殺された仇(あだ)討ち」という供述を繰り返しており、「飼い犬を処分された恨み」を一方的に募らせ、厚生行政にかかわった官僚経験者を無差別に狙おうとした可能性が高まっている。

※以下、省略。

(2008年11月26日14時36分 読売新聞)

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勘違いの連鎖(元厚生次官宅襲撃事件):

» 小泉容疑者の勘違いで殺害された元事務次官 トラックバック かきなぐりプレス
子供のころ可愛がっていたペットを殺されたこと、毎年50万頭が殺生されていることに憤った小泉容疑者だが、取り調べ中に保健所の管轄は厚生労働省ではないことを知らされると「えっ」と絶句した、という。 保健所は各自治体の管轄になるわけで、小泉容疑者の勘違いと思い込みから元厚生省事務次官は殺害されたことになる。 まさに犬死ではないか。 常人には理解できないことだが、ペットの仇討ちは本当だったようで、父親に宛てた手紙にもそのことが触れられていたようだ。 取り調べ中もそのことになると涙ぐむ... 続きを読む

受信: 2008/11/27 11:08:56

コメント

取り調べが始まったばかりのこの時期にリークされた情報をもとに、
憶測だけであれこれ想像することの是非はともかく、
これは「勘違い」なのでしょうか。
妄執という言葉もありますが、
「妄想」と表現するほうがより事実に近いかもしれませんね。

投稿: mike | 2008/11/27 7:26:35

「取り調べが始まったばかりのこの時期にリークされた情報をもとに、憶測だけであれこれ想像することの是非」については、11月23日のエントリーで書いていますので、そちらを参考にしてください。

このエントリーでは、小泉容疑者の犯行動機はあくまでも話を進めるための入り口です。よって、動機が不確定であるか「妄想」であるかは、どうでもいいわけです。

よくお読みになればわかると思いますが、ポイントは犬猫を無責任に飼う人たちに関する話であり、小泉容疑者の犯行動機がどうこうという話ではありません。

よーく読んでからコメントしていただければ幸甚に存じます。

投稿: lelele | 2008/11/27 9:37:18

 なるほど。
 まるで、産業廃棄物の構造に似ていますね。問題になるのは、廃棄物を出す都市部よりも、周辺部ですからね。

 そういえば、子猫殺しについて、理不尽に思っている医学部生がいましたよ。

投稿: 渋井 | 2008/11/27 14:16:35

まずmikeさん。「よーく読んで」なんてエラそうなコメントをしてしまい、申し訳ありません。
そして渋井さん。医学部生さんには、ぜひとも理不尽だと思う部分をメールやコメントなどでお知らせいただきたいところです。そこを起点に、「子猫殺し」について議論してみるのもよいかと。
まあ、よろしければということで。

投稿: lelele | 2008/11/28 0:39:51

心理学の古典を援用するまでもなく、
「いい間違ってしまった言葉・つい発してしまった言葉」
というのは怖いですね。
その人の無意識の表明がそこに見え隠れしますからね。

文頭に、
「取り調べが始まったばかりのこの時期にリークされた情報をもとに、
 憶測だけであれこれ想像することの是非はともかく」
とわざわざ書いているのは、
その11/23のエントリを踏まえているからです。

「話を進めるための入り口」「どうでもいいわけです」とのことですが、
そのわりには、
短い文章中「小泉容疑者」を連呼してずいぶん記述していますよね。
「勘違い」と記事のタイトルにも使っている。

テレビでコメンテイターが「したり顔して勝手な予想や印象でものをいう」
なるほど、これはたしかにどうかと思いますが、
まだ不確定な情報をもとに、
「自己の主張を展開させるために事件報道を利用する」のも、
第三者からは五十歩百歩に見えなくもないですよ、という話です。

あんな連中と一緒にするな、と、
エライleleleさんはおっしゃるかもしれませんけれどもね(笑)。

投稿: mike | 2008/11/29 10:08:15

いやはや失礼いたしました。

投稿: lelele | 2008/11/29 13:16:47