双風亭日乗

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2008年12月 1日 (月)

高知新聞記者を引き抜いた朝日新聞

「週刊文春」2008年12月4日号に「朝日大赤字 51歳地方紙エースを引き抜いて…」という記事が掲載されました。「大赤字」は置いてといて、「地方紙エースを引き抜いて…」に注目してみましょう。

朝日新聞(以下、朝日)に引き抜かれたのは、高知新聞の編集局次長兼編集委員の依光隆明さん(51)。2001年に「高知県庁の闇融資事件」取材班代表として日本新聞協会賞を受賞しています。朝日は依光さんを、12月1日付で採用したようです。

朝日は記者だけで2600人。高知新聞は全社員で300人。経営規模や人材の多さから普通に考えると、再建や活性化のために、朝日の編集委員クラスの記者が高知新聞に引き抜かれる、ということになりそうなものです。しかし、実際に起きたことはその逆でした。

では、なぜ地方紙の幹部記者を全国紙が引き抜いたのか。記事中に以下のようなコメントありました。

朝日新聞OB
「背景には、深刻な人材不足がある」
「優秀な人材がまるで育っておらず、外部の力に頼るしかないお粗末な状況なんです。現場でも中途採用の記者の活躍が目立ちます」

現場の記者
「いまの幹部は上ばかり見ているヒラメ官僚しかいません。うちの幹部連中にスクープを獲ってきた人など少数しかいないんです。『この人、何の記事書いて偉くなったんだっけ?』と思う人ばかり。
ここが勝負所だとか、相手にこうねじ込んでこうネタを獲るんだとか、後輩記者に教えることができる人はいませんから。逆に、危ない記事は書かないでおけ、雑業務は速くやれ、そんなことばかり聞かされている。記者なのに外に目が向かず、社内ばかり見るようになっているのだから情けない」

引き抜きの窓口役となった朝日新聞顧問の松本正さん
「この案件は、秋山耿太郎社長の特命なんです。朝日は武富士のウラ広告費問題やNHK番組改編報道を巡っての内部資料流出など不祥事が連発し、新聞記者のモラルが低下してしまった。そこで記者教育の充実、調査報道の強化などを実行する必要があると考えたわけです。<以下、略)>」
「週刊文春」2008年12月4日号、37-38ページ

おもしろいですね。地方紙よりも記者の給料はいいし、設備は整ってるし、取材網もあるし、ネームバリュだってある全国紙にいい人材が育たない。全国紙よりも給料は安くて、設備はボロくて、取材網も少なくて、ネームバリューもない地方紙でいい人材が育つ。

記者の収入や生活レベルでいったら、あらゆる意味で全国紙は貴族、地方紙は平民って感じでしょう。そして、普段はお高いかんじで地方紙をバカにしている全国紙が、いざとなったら地方紙からいいとこ取りをしてしまう。いったいどうなっているのでしょう、朝日!

こんなことをやっていると、全国紙の記者が高収入であることの意味がなくなっちゃいますよね。環境や設備が悪く、収入は低くても優秀な記者は育つことを全国紙が認めているんですから。

おそらく、こうした状況は、新聞の全国紙だけでなく、主要なテレビ局にもいえることなのかもしれません。すくなくとも、読売新聞と毎日新聞の現役記者からは、上記で取りあげた朝日現役記者のコメントと似たような話を聞いたことがありますし、テレビ局だとNHKとテレビ朝日の人からおんなじような話を聞きました。

もちろん、現役の記者やディレクターなどにも、優秀でいい仕事をしている人はいます。幹部でも、部下が自由に仕事ができるように、体制と闘っている人もいます。でも、それは圧倒的少数のようです。あくまでも伝聞情報なのですが。

マスコミ志望の学生向けに東大で講師をやったときにつくづく思ったのは、彼らの志望動機が「何をやりたいのか」よりも「どこが高収入で安定しているか」という感じだったことです。それはそれでいいと思うんですよ。入社して、仕事をしてみて、合えばずっといて、合わなければ転職すればいいんですから。

問題は、仕事が合っていないのに、「高収入&安定」ということで職場に居続ける人がいることです。このへんの流動性がないと、その仕事が適職だと考えている転職組の入る余地がせばまってしまいます。とはいえ、ものすごい倍率の試験をクリアして入った人が、「仕事が合わない」といって簡単に転職するとも思えません。ん~、むずかしい。

でもね、もしその難関企業から「高収入」という文字が消えたらどうなるでしょう。「高収入」が「平均的な収入」となったときから、とりあえず「高収入」目当ての人は、その会社を志望しなくなるのでは。そして、そういう人が受験しないぶん、新聞社だったら、ほんとうに記者をやってみたい人が入社できる余地が拡がるのではありませんか。

ようは、全国紙(とくに朝日、読売、日経)社員の給料が高すぎるんだと思います。私から見ると、天文学的な金額をもらっていますからね。全国紙といっても、いろんな職種があるので一概にはいえませんが、記者職の給料は高すぎるでしょう。

朝日は赤字だとかいっているけれど、まずは社員の給料を見直したらいいんじゃないんですか。収入が低くなれば、辞める人も出てくるかもしれない。そうすれば、「平均的な収入」でいいから新聞記者をやりたい、という人の働く場所が増えます。

「高収入」で「高品質」が確保できるわけではない。普通の収入でも、「高品質」な記者は育つ。ならば、全国紙の記者が「高収入」である必然性はなくなります。朝日が高知新聞記者を引き抜いた件は、そのことを実証しているように、私には見えました。

じつは、以上で書いたようなことは、新聞社やテレビ局だけでなくて、大出版社にも該当することなんですよね、たぶん。でも、書店というのは誠に平等な場所で、(私から見れば)天文学的な収入を得ている大出版社の編集者がつくった本も、私のような月給20万円(手取りは15万円)がつくった本も、となり同士で平積みになっていたりします。負け犬の遠吠えと思われるかもしれませんが。

お金がなければ生活はできないので、「仕事選びは、カネじゃないよね」などとは言いません。しかし、「カネはそこそこでいいから、この仕事をやりたい!」っていう人はたくさんいるだろうし、そう思っている人をトレードすれば、それぞれの職場が活性化されるんじゃないのかなあ。新聞もテレビも出版も。

でも、「高収入」を基準に住宅ローンを組んだり、やたらとお金のかかる学校に子どもを入れている人からすれば、給料を下げたほうがいいなどと戯れ言をいってる私には「ふざけるな」って言いたい気分なんでしょうね(笑)。それも仕方のないことです。

一応、書いておきますが、このエントリーでは「すべての企業は、社員の給料を下げろ」とネオリベみたいなことをいっているわけではありません。私から見ると、必要以上に高いマスコミ(プロパーの人)の給料は、すこし下げたほうがいいのではないか。そして、ほんとうにその仕事をしたい人ができるような体制をつくったほうが、会社経営は長持ちするし、記事や番組の品質も上がるのではないか。そういうことを書きました。

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