双風亭日乗

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2009年2月 5日 (木)

連載第3回 「子猫殺し」再考 (本の概要)

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こんにちは。連載の3回目は、『「子猫殺し」を語る』の概要をお知らせします。

この本の「まえがき」は、坂東さんの希望により私が執筆しました。この「まえがき」を読んでいただければ、同書の概要が理解できると思います。

以下、「まえがき」の全文を公開します。

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坂東眞砂子著『「子猫殺し」を語る』


まえがき


一九九四年四月から七月のあいだに、アフリカのルワンダでフツ族によるツチ族への大量虐殺がおこなわれた。約一〇〇日間ですくなくとも八〇万人のツチ族がフツ族によって殺されたこの事件で、虐殺の煽動をしたのは、フツ族過激派がつくった「千の丘ラジオ」による過激な放送であった。放送内容の一例をあげてみよう。

「ゴキブリどもを血祭りにあげよう。心配いらない、ラジオが味方だ。だから武器を取って家を出よう!」(NHKスペシャル「なぜ隣人を殺したか――ルワンダ虐殺と煽動ラジオ放送――」一九九八年一月一八日放送分より)

テレビも新聞も普及していないルワンダでは、ラジオというメディアが煽ることによって、「なぜ殺すのか」とか「殺される側はどう思うのか」といったことを考えることなく、虐殺する側のフツ族が、昨日まで隣人であったツチ族を殺しつづけたのである。

二〇〇六年八月一八日の日本経済新聞夕刊に、坂東眞砂子さんによる「子猫殺し」というエッセイが掲載された。このエッセイをめぐり、おもにネット上では、愛猫家と思われる人々によって、徹底的な坂東バッシングがおこなわれた。

「坂東眞砂子を血祭りにあげよう。心配いらない、ネットが味方だ。だからブログを使ってみんなで叩こう!」

このような雰囲気でネットというメディアが煽ることによって、「坂東さんがなぜ『子猫殺し』というエッセイを世に発表したのか」ということや、「人は動物とどう向きあっていけばいいのか」というエッセイの主題がほとんど議論されないまま、圧倒的多数の人々(それも、ほとんど匿名)から、坂東さんは叩かれつづけた。

この「子猫殺し」騒動を知ったときに、私の脳裏によぎったのがルワンダの大量虐殺であった。メディアを使った排除の構造が似ているのである。

ルワンダの虐殺と坂東さんへのバッシングでメディアが果たした役割を比較すると、前者には首謀者(フツ族過激派)がいて、後者にはそれがいないことに気づく。つまり、ネットとは、首謀者が不在であっても、ルワンダの事件と同じような構図の煽動と排除の論理が、いとも簡単に成立してしまうメディアなのではないか。「子猫殺し」騒動をリアルタイムで体験した私には、何よりもそのことが気にかかった。

その後、「熱しやすく冷めやすい」というネットの特徴を体現するように、あれだけ加熱した「子猫殺し」に関する議論は、エッセイが新聞に掲載された直後の同年八月二四日と、毎日新聞に「<子猫殺し告白>坂東さんを告発の動き――タヒチの管轄政府」という記事が掲載された同年九月二二日をそれぞれピークにして、約一カ月で終息した。けっきょく、坂東さんが「子猫殺し」というエッセイで提起した問題は、中途半端な状態で世の中に受け入れられてしまった。

騒動から二年が経った二〇〇八年の春。ある人の紹介で、私は坂東さんにお会いした。私は、騒動の当時から「子猫殺し」エッセイへの過剰なバッシングを疑問視していたことを告げる。坂東さんは、自身としてはあの騒動に対して「落とし前」をつけたいのだが、「子猫殺し」を含むエッセイの刊行を引き受ける出版社がない、と答える。そして、「それなら、双風舎から出しませんか?」という話になり、このたびの刊行にいたった。

人も獣も含めて、この世に生を受けたものたちが「生きる」こと、そして「死ぬ」こととは、どういうことか。また、「子猫殺し」バッシングとはいったい何だったのか。本書ではこのふたつの問題を、二〇〇六年の「子猫殺し」騒動を検証することによりあきらかにする。

さて、問題となった「子猫殺し」は、当時タヒチ(フランス領ポリネシア)に滞在していた坂東さんが、日本経済新聞夕刊「プロムナード」欄に連載した二四本のエッセイのうちのひとつである。この連作エッセイは、「生き物の生と死を考える」というテーマで書かれており、「子猫殺し」もエッセイ全文の文脈のなかに位置づけたうえで読んでもらえればと考えている。このエッセイ全文が本書の第一部を構成する。

第二部では、本書のテーマを掘り下げるために、東琢磨さん(音楽評論家)と小林照幸さん(ノンフィクション作家)、そして佐藤優さん(起訴休職外務事務官、作家)が、それぞれ坂東さんと徹底討論をおこなった。

東対談では、「管理されないものは愛されない」というテーマで、ネット社会、正義とは何か、日本社会の現状などについて議論してもらった。小林対談のテーマは、「生き物の命と向きあうために」。生き物に対する責任、食育のたいせつさ、動物愛護などについておふたりが語る。そして、佐藤対談では、「『子猫殺し』バッシングというファシズム」というテーマで、騒動の原因、愚行権、「猫とファシズム」などが議論される。

坂東さんがなぜ子猫を殺したのか。そして、坂東さんはなぜ叩かれたのか。その真意を探り、状況を検証してみる。すると、「子猫殺し」から見えてきたのは、日本社会の現状であった。

双風舎編集部 谷川 茂

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「まえがき」の公開は以上です。
写真は、台東区谷中付近で撮影した地域猫です。寒そうにしていました。
では、次回の更新をお楽しみに!

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コメント

>ラジオが見方だ
>ネットが見方だ
味方・・では?

投稿: 通りすがりの者ですが | 2009/02/07 2:27:16

ありがとうございます!
訂正しました。

投稿: lelele | 2009/02/07 3:03:49