双風亭日乗

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2009年2月 7日 (土)

連載第5回 「子猫殺し」再考 (閑話休題)

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あるスナックにて

深夜3時。浅草のあるスナック。40代前半のママさんは福島県出身。高校卒業後、埼玉に上京し、いまは浅草でスナックを経営。ママさん、犬を飼っているというので、酒飲み話の一環として、坂東さんの「子猫殺し」の感想を聞いてみました。

谷川「犬とか猫とか、飼ってるの?」
ママ「犬、飼っているよ。ミニチュアダックスフンドで、ポチっていう六歳の雄犬」
谷川「避妊手術とか、してるの?」
ママ「してないね」
谷川「なんで? 部屋飼いの犬に避妊手術をしないのって、いまどき珍しいんじゃない」
ママ「ん~、とくに理由はないけど。あえていえば、避妊する必要もないってことかな」
谷川「でも、まわりの犬好きは、みんな避妊しているんじゃないの?」
ママ「だいたい、してるね」
谷川「避妊しないと、はやく死んでしまうとか、盛りがついたときに見てられないって聞くけどね」
ママ「そうね、盛りのときはたいへん。それでも、ときどき同じ犬種で、避妊していない雌犬と交尾させているのよ。子どもができたら、もらい主を見つけるのたいへんだけどね」
谷川「へぇ~、ママにしろ雌犬の飼い主にしろ、いまどきそういう人もいるんだ。ところで、2年くらい前に起きた『子猫殺し』騒動って、知ってる?」

ママ「そんな騒ぎがあったの?」
谷川「うん。ネットとかで話題になってた」
ママ「わたし、パソコンを使ってないからさぁ」
谷川「ある女性作家がタヒチってところで、飼っている雌猫の子どもを崖から捨てて殺したって新聞に書いたら、猫好きの人たちが『子猫がかわいそう』って猛反発したんだよね」
ママ「それだけ聞いたら、たしかにかわいそうって思うかも。でもさあ、その作家さんだって猫好きなんだろうから、事情があったんでしょ?」
谷川「その人は、セックスすることは雌猫にとって、たいせつな生きる喜びなのではないかって考えていて、それで避妊しなかったらしい。で、まわりにもらってくれる人もいないし、経済的にも育てられないから、目が開く前の子猫を捨ててたんだよね」
ママ「そんなの、よくある話じゃないの。私が高校まで育った福島の農村では、子猫の間引きなんて当たり前にやっていたわよ」
谷川「そうなんだ」
ママ「いまも覚えてる。うちの雌猫に子どもが産まれると、お母さんがダンボール箱にいれて、川に流していた。それを見て、当時の私は『お母さんは、なんてひどいことをするんだ』と思ってたけど、いまはそんなふうに思わないわね」
谷川「いまは、どう思うの?」
ママ「お母さんは、誰かがやらなきゃいけないことを、やってくれていたんだと思う。だって、獣医なんていなければ、猫の避妊はできないでしょ。獣医がいたって、お金がなければ手術できないし。避妊しない雌猫は、じゃんじゃん子猫を産む。それをぜんぶ育てるのなんて無理じゃない。お金ないし。そうなりゃ、捨てるか殺すか、するしかないんじゃないの」
谷川「ネットでは、猫の避妊をしない人や、子猫を捨てたり殺すような人は、そもそも猫を飼わなければいいじゃん、っていう人が多かった」
ママ「それって、獣医のいない地域の人や貧乏人は、猫を飼うなっていうことだよね。そんなことをいってるネットの人たちって、都会のお金持ちなんじゃないの」
谷川「いろいろいるとは思うけど……」
ママ「私はね、犬猫を避妊するのも、別にかまわないと思ってる。でも、自然がたくさんのこってる田舎だと、わざわざ避妊する人なんて、あんまりいないんじゃないのかな。いまはどうか知らないけど。避妊しなければ子どもが産まれ、その子が育てられなければ殺す。それが当たり前のことだと思っているけどね」
谷川「たしかに、避妊しなければならぬ、って決めつけるのはどうかと思う」
ママ「くわしいことはよくわからないけど、交尾したり子孫を残すことって、動物の本能でしょう。どんな猫だって、交尾したいだろうし、子どもを産みたいと思うんだよね。私は人間だから、猫との気持ちはわからないけど」
谷川「たぶん、ママの田舎みたいな犬猫の飼い方をしていること自体、知らない人が多いのかもしれないね。あと、動物が死んだり殺されたりする場面を目にする機会がない」
ママ「そんなこといったら、私がいた高校のテニスコートの横は、屠殺場だったんだからね。授業でテニスしてると、豚の『キィーッ、キィーッ』って死に際の声が聞こえたんだよ(笑)」
谷川「それはまた、めずらしい場所に高校が(笑)。動物を殺す場面を見たり、殺す場所が近くにあったりした人であれば、さっきの作家さんがやっていた子猫殺しに対して反発する人もすくなかったのかもね」
ママ「とりあえず、私は、その作家さんの子猫殺しがヘンだと思わない。仕方なくやったことだと思う。世の中には、やりたくないことだって、やらなきゃならないときもあるからさぁ。もし、私がいまも福島に住んでて、雌猫を飼ってて、子どもが産まれたとしたら、やっぱりお母さんと同じように、子猫をダンボールに入れて川に流すかもしれない。子猫はかわいそうだし、悲しいことだけど、仕方がないじゃない」

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コメント

「あらゆる生命は無条件に価値がある。」
大人はこの建前を永久に護持すべきであると思います。

投稿: 松村彦 | 2009/02/08 21:07:33