双風亭日乗

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2009年2月10日 (火)

クジラと子猫

南極海で日本の調査捕鯨船団に対して妨害活動をおこなっている米環境保護団体シー・シェパード(SS)。クジラをめぐる問題は複雑で、簡単に「これが答えだ」とはいえません。クジラを食べたり、油をとる国もあれば、まったく捕鯨をしない国もある。捕りすぎるとクジラが絶滅するという人もいるし、クジラが増えるとサンマやイワシが減るという人もいる。

いずれにしても、SSの活動はやりすぎであり、テロといわれても仕方のないような部分もあると私は思います。捕鯨船に体当たりしたり、ロケット弾を打ち込んだり……。でも、ちょっと待ってくださいよ。多くの人が、SSと似たようなことを、殺意と軽蔑のこもった「言葉」という武器をつかってやっていたんじゃありませんか。

攻撃される側と攻撃する側の図式を見てみると、「攻撃される側=捕鯨船=坂東さん」となり、「攻撃する側=SS=坂東さんをバッシングした人々」というかたちに見えて仕方がありません。「クジラ」を殺した捕鯨船と、「子猫」を殺した坂東さん、そして「クジラ」を殺したことに過剰反応しているSSと、「子猫」を殺したことに過剰反応した人々という意味でも、図式が似ています。

日本はクジラを食べる文化が脈々とあるのだから、絶滅しない程度に捕鯨を実施するのは問題のないことだと私は思っています。また、いま連載しているエントリーにも書きますが、犬や猫の命(というか、動物の命のほとんど)は、つまるところ人が勝手にコントロールしているという前提に立てば、犬猫とどう向きあうのかは飼い主の個々人が考えるべきものであり、飼い主にもいろんな事情があるのだから、一概に「子猫殺し」がいけないとはいえないと私は考えています。

ようするに、いずれも騒ぐほどの問題ではないと思うわけです。しかし、SSは捕鯨船を攻撃して騒がれ、愛猫家らしき人々は坂東さんを攻撃して騒がれました。そして、いま日本では、SSが「海賊」だとか「テロリスト」だといって批判され、糾弾されている。では、2006年8月下旬から9月下旬にかけて、坂東さんを「言葉」の武器で糾弾した人たちを、いったい何と呼んだらいいのでしょうか?

さらに、いま2ちゃんねるや「痛いニュース」などを読むかぎりでは、SSが徹底的に叩かれています。もし、そのSSを叩いている人のなかに、2006年に坂東さんを叩いた人がいるのなら、「SSを叩いているということは、坂東さんを叩いた自分を叩いていることと同じ」だということになります。とても滑稽な話ではありませんか。参考までに、坂東さんが叩かれたときと、SSが叩かれたときの、「痛いニュース」のエントリーは以下です。

痛いニュース

2006年8月20日
作家の坂東眞砂子が18日の日経新聞で日常的に子猫を殺していると語る
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/770743.html

2009年2月8日
シー・シェパード「軍用級の兵器を民間人に使うのは違法だ!」 日本捕鯨船団の音ビームに撃退され反発
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1215333.html

大きな流れに乗っかって、人やら組織やらを匿名で叩くのは、気分がいいし安全なので、やめられないのかもしれません。また、叩いている最中には、自分の滑稽さに気づかないないのも、いたしかたがない。でも、自分のやっていたことややっていることを、ふと立ち止まって見つめ直してみると、それが滑稽で意味のないものであったら、悲しいですよね。

捕鯨船がSSに攻撃されているニュース画像を見ながら、そんなことを考えました。

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