双風亭日乗

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2009年3月27日 (金)

本末転倒

以下、「ミクシーの『坂東眞砂子不買運動』というコミュニティについて」というエントリーに対していただいた臥猫亭さんのコメントに応答します。

谷川さまが出版にたずさわる方である以上、「表現の自由」については、もっと真剣に考えておられるものかと思っておりました。

「表現の自由」は、出版にたずさわっていても、たずさわっていなくても、誰もが真剣に考えるべき問題だと思います。ですから、「出版にたずさわる方である以上」というかたちで、「表現の自由」を真剣に考えていないのではないか、というレトリックを使うことは、事の本質とはまったく関係ないと思います。
それなのに、軽いノリでコミュの閉鎖を要望するという行動に出られたことが驚きです。

どんな不快な表現であれ、とりあえずその存在は保証する。

これが「表現の自由」を支える理念ではないのでしょうか。
坂東さんも、その自由があればこそ、大多数の人にとって不快であろう表現をあえてエッセイに書かれ、それが日経新聞に掲載され、今でも読めるわけですよね?

それは本末転倒な考え方だと思います。その理由を簡単に整理すると、第一に坂東さんの日経新聞に書いた「子猫殺し」というエッセイは、誹謗中傷されたり罵詈雑言を書かれるようなものではない。

第二に、にもかかわらず、おもにネット上では坂東さんに対する誹謗中傷や罵詈雑言が飛び交って、その痕跡がいまでも残っている。

第三に、いまも坂東さんを誹謗中傷したくなる気分が、痕跡を残した人たちにあるのなら、しっかりとその気分を維持したうえで、坂東さんの問いかけにもしっかりと応答してほしい。しかし、けっしてそうはなっていない。

第四に、痕跡が痕跡のまま放置されており、その痕跡を見たり読んだりして迷惑な人がいる。さらに、この痕跡は、そもそも誹謗中傷されたり罵詈雑言を書かれるような筋合いのないエッセイが起点になっている。よって、痕跡によって迷惑な人がいる以上、放置しておくつもりなのであれば、その痕跡を除去してほしい。

第五に、これはあくまでも痕跡を除去してほしい側の話なので、除去の可能性については、こちらがどんな迷惑をうけているのかを明確にしたうえでミクシーに検討していただく。この場合、ミクシーが放置を妥当と判断すれば、それはそれで仕方のないことである。ようするに、コミュの管理人が私からの連絡を「ネタ」として使うとおっしゃってますように、私も「ネタ」としてミクシーと連絡をとる、という程度の問題です。

上記コミュの閉鎖をミクシーにお願いするかもしれないという話は、こういう流れで進んでいます。最大のポイントは、第一の理由です。この第一の理由が妥当かどうか、多くの人に考えていただくために、『「子猫殺し」を語る』という本を刊行しました。


ひるがえって谷川さまの行動を見るに、ご自分にとって利益になる一方の表現の自由はキープしつつ、都合の悪い他者による表現については抹殺を求めて恥じない。

ダブルスタンダードが過ぎるのではありませんか?

「子猫殺し」エッセイを書いた坂東さんの表現の自由をキープするのは、本を出した出版社の責任であり、当然のことです。しかし、そうしたからといって、私の利益にはなるとはかぎりません。あれだけ騒動になった話を蒸し返せば、再び「不快だ」という人たちからバッシングされる可能性がある。また、どんな本であれ、本を出したことがそのまま利益に結びつくとはかぎりません。

さらに、「都合の悪い他者による表現については抹殺を求めて恥じない」というアクションをはじめに展開したのは、「子猫殺し」に反発した人々です。そして、何度も書きますが、そのアクションを起こす理由のエッセイが、それほど騒ぎたてるような内容ではないのではないか、ということを示すために、私は『「子猫殺し」を語る』を出すことにしたのです。
……なんていうのは、所詮建前ですよね。
命に軽重があるように、表現にも軽重があることは仕方ないのでしょう。
子猫なら崖から投げて殺しても罪に問われないのと同じく、たかがミクシィのコミュに閉鎖を「お願い」したところで、その問題点には気づく人は少ない。

直木賞作家の表現は守るが、一般人の表現は消しても可。
人を殺すのは犯罪だが、子猫なら何匹殺しても可。

そういう手あかのついた常識のもとで今更「子猫殺し」の意義をいくら考えてみたところで、さほど意味はなく、またしても多数の人を不快にさせるだけのような気がいたしますが。

とりあえず私も本が売れることを祈念いたしております。

この部分と、その後に臥猫亭からいただいたコメントについては、拙ブログの「子猫殺し再考」というカテゴリーにストックしてある文章に私の考えが書かれていますので、そちらを参照してください。

いずれにしても、どうしてこの問題を語るときに、いちいち「直木賞作家」という冠をつけたがるのでしょうか。私自身、別に「直木賞作家」であることを意識して、坂東さんと仕事をしているわけではなく、「子猫殺し」騒動を問題視する点で共感したので、坂東さんと本を出すことしただけの話です。

「子猫殺し」騒動の全般にいえることですが、「子猫」とか「直木賞作家」といった記号が悪意のレトリックとして使われ、それを書いておけば文句をいったつもりになれるような風潮があると思います。とはいえ、事の本質は、そのような記号とは関係のない部分にあります。

これも何度も書いてますが、「子猫殺し」エッセイのキモともいえる部分は、「人と人以外の生き物との関係性」にあるわけです。その点を読み解く前に、「子猫」や「直木賞作家」という記号に過剰反応したうえで坂東さんを糾弾し、エッセイのキモが忘れ去られてしまったという倒錯した状況が、「子猫殺し」騒動の顛末だったのではないかと私は考えています。

こうしたやりとりをつづけていると、「子猫殺し」騒動の本質からどんどん離れていってしまいます。できれば、臥猫亭さんご自身は「子猫殺し」エッセイをどう読まれたのか、また人と人以外の生き物はどういう関係性であるべきなのか、といったことをお書きになっていただくと、有意義な議論が期待できると思います。

あと、他人を批判をする責任の所在を明確にするという意味で、投稿の際にはお名前やメアドなどを記していただければ幸いです。無理をいって申し訳ありませんが、拙ブログはそういう方針です。

「子猫殺し」再考 | コメント (9) | トラックバック (0) |

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本末転倒:

コメント

回答ありがとうございます。

>さらに、「都合の悪い他者による表現については抹殺を求めて恥じない」というアクションをはじめに展開したのは、「子猫殺し」に反発した人々です。

とのことですが、坂東氏の「表現」は現に「抹殺」されたでしょうか? たとえばエッセイが掲載された日経新聞を図書館そのほかでも一切読めなくしてしまう、などの圧力がかけられて、初めてそれは「抹殺」を求めたことになるのです。
現にそんなことになってはいませんね。
ちょっと検索しただけで、問題のエッセイはネット環境にあれば誰にでも読むことができます。

http://stakasaki.at.webry.info/200608/article_15.html

ですから坂東氏を批判した人たちは「抹殺」など求めてはいないのです。ただ不快な表現に同じく不快な表現で答えたというに過ぎない。
それを「抹殺を求められた」などと表現するのは事実の歪曲であると思うし、殉教者ぶるのはできればやめていただきたい、としかいいようがありません。

次にもう一点。
>それは本末転倒な考え方だと思います。その理由を簡単に整理すると、第一に坂東さんの日経新聞に書いた「子猫殺し」というエッセイは、誹謗中傷されたり罵詈雑言を書かれるようなものではない。

と谷川様が判断される根拠は何ですか?
単に谷川様の主観であるに過ぎないのではないですか?
あのエッセイを読んで不快に感じた人がいるのは事実です。
たとえば山本文緒氏の『再婚生活』というエッセイには、あれを読んで一時的に鬱の症状が悪化したというくだりがありました。

http://starss.jp/catnip/archive/409017/100972356
http://starss.jp/catnip/archive/409017/89421915

何が「不快」であるかについて、受け手の側の感性を無視することはできません。それはハラスメントの問題に共通するところがあります。
「悪気はなかった」と一方が言っても、相対する一方が恐怖、不快そのほかのネガティブな感情を抱けば、それはハラスメントになってしまうのです。
そして大勢の人が坂東氏のエッセイに不快感を表明したことについて、その是非を判断する絶対的な立場には、誰も立つことは出来ないと思います。
谷川様が坂東氏のエッセイに関するご自分の判断を、他人より正確なものとして絶対化される、その根拠は何ですか?

さらに、メールアドレスと名前に関してですが、もう少しやり取りを重ねてから判断させてください。直木賞作家などという肩書きは記号にすぎない、と言われる谷川様なら、どこの誰ともわからない私のような人間とでも、発言の内容に関してだけやり取りをすることも可能ではないかと思いますので。

とりあえずここまで送信します。

投稿: 臥猫亭 | 2009/03/27 17:35:54

エントリーで記したとおり、このままやりとりするのは不可能なので、お名前かメアドをお知らせください。繰り返しますが、ネット上であれ、どこであれ、それをやらないと人を批判するときの発言が「いいっぱなし」かつ「無責任」になってしまいます。2ちゃんは2ちゃん、ミクシーはミクシー、このブログはこのブログです。

投稿: lelele | 2009/03/27 17:43:21

 おたずねの点について回答です。
>できれば、臥猫亭さんご自身は「子猫殺し」エッセイをどう読まれたのか、また人と人以外の生き物はどういう関係性であるべきなのか、といったことをお書きになっていただくと、有意義な議論が期待できると思います。

 どう読んだか、については、何もこんなこと書かなくてもいいのに、としか言いようがありません。ホラーは好きなジャンルなので、坂東氏の小説も何冊か読んだことはありました。小説が本業とお考えであるのなら、こんなことに神経を使うのは、完全なマイナスにしかならないだろうと。
 悲しいことですが、他人様の飼い猫に対して、私は何もできません。
自分の家族や猫を幸せにするだけでも結構大変なことだというのに。
 避妊手術を受けさせないのも、子猫を崖から投げて殺すのも自由です。ただそれに変な理屈をつけて自己正当化しないでいただきたい。本当に悪いことだと思うのなら黙ってお墓まで持ってゆけばよいし、罪の意識に駆られて辛いというのならやめればいい。多少ご自分の主義主張を曲げることになっても仕方がないと思います。
 そもそもアフリカ原産の猫という動物がタヒチに居る時点で、もはやそれは「自然」ではないのですから。
 とりあえず猫を何匹崖から投げようが、さらにそのことを公表しようが、「人と人以外の生き物との関係性」の改善には何ら寄与しないと思います。

投稿: 臥猫亭 | 2009/03/27 17:49:36

 それでは、お返事をいただきたいと思っているので、メールアドレスをお知らせいたします。
 さらにもう一つ質問です。
 谷川様のおっしゃる「痕跡によって迷惑な人」についてですが、具体的にどのような方が、どのような迷惑をこうむるというのでしょう?
 もしも差し支えなければ教えていただきたいと思います。
 

投稿: 臥猫亭 | 2009/03/27 17:58:07

 なお質問に答えず拙コメントを削除されるのはご自由ですが、まさか谷川さまご自身がここで「いいっぱなし」「無責任」を実践されるおつもりはないですよね?

投稿: 臥猫亭 | 2009/03/27 18:04:57

メアドを教えていただき、ありがとうございました。なお、メアドは責任の所在をあきらかにするためのものであり、個人的に返信する目的で記してもらっているわけではありません。

「そもそもアフリカ原産の猫という動物がタヒチに居る時点で、もはやそれは『自然』ではないのですから。」

そのとおりです。つまり、ある意味では動物を飼っている時点で、動物を人間の思うがままにしている、極端にいえば虐待しているということに、人間は自覚的であったほうがいい、という話を坂東さんはしたかったわけです。

いただいた論点に関する私の見解の多くは、これまでのエントリーをお読みいただければ書いてあります。というわけで、この件に関する議論は、これくらいにしておければと思います。

投稿: lelele | 2009/03/27 18:12:08

回答ありがとうございます。ほぼ予想どおりのお答え、というか、こちらも答えにくいことばかり質問してしまったという自覚はありますので、これ以上深追いする気はありません。
 なお余計なことと思いつつ忠告めいたことを書かせていただければ、この問題についてさらに広く提起しようと思われるのであれば、ミクシーの当該コミュを敵視するのではなく、谷川様もそこのメンバーとなってトピックを立て、本の存在を知らせればよいのではないかと思いました。
 話の通じる、自分のいうことに賛成してくれることが前提の人たちだけとやり取りしていても問題提起にはなりませんし、ネットの醍醐味も味わえないものと存じます。

投稿: 臥猫亭 | 2009/03/27 18:22:53

ご教示いただき、ありがとうございます。

投稿: lelele | 2009/03/28 2:49:13

件のmixiコミュニティ管理人です。
ちなみに、『ミクシー』ではありません。カタカナ表記するなら『ミクシィ』です。運営する企業の名前でもあります。
http://mixi.co.jp/
作家の名前を間違えるようなものですよ。

さて、コミュメンバーからの情報で、面白い展開になっていると聞いて飛んできました。

とりあえず、この件に関連するエントリーをざっと流し読みしましたので、いくつか私から一方的に述べさせていただきます。
回答はしていただかなくとも結構です。あなたには華麗にスルーする権利があります。

*騒ぐような問題?
騒いでいる、とは随分上からモノをおっしゃるんですね。
多少感情的なきらいはあるものの、私はこの件に関しては坂東氏に嫌悪感を抱きました。坂東氏の著書も何冊か持っていましたが、処分しました。崖から落とすのではなく、ブックオフに持ち込みましたけどね。
話がそれましたが、坂東氏に嫌悪感を抱き、わかりやすい形でコミュを立ち上げたところ、意外にも人が集まった(同じ気持ちの人がいた)、ただそれだけです。そしてこの嫌悪感が消えることはないでしょう。
あなたの論法をそのままお借りするならば、『聞いたことのない出版社が突然営業妨害だからコミュ消せ』と騒いでいるようにしか見えません。そして、個人名義ではない、会社名義のブログで感情論をぶちまけているようにしか見えないのです。


*削除依頼?
2ch風だとと、『出版社必死杉ww』という感じでしょうか。
ちなみにこのエントリから1週間以上経過していますが、mixi事務局からは何の通達もなされておりません。
まさに、ネタにしかならなかったんですね。
本の売り上げが振るわないのではないかと、他人事ながらとても心配になってしまいます。ランキングなどでもお見かけしませんし。
ビジネスに、過度な感情移入をしない方がよろしいのでは。

*赤木氏のコメント
>まぁ、このコミュがまともに機能していなかったことは、
>今回の本の発売すら把握していないことから、あきらかですね。
>多分、谷川さんからメールが行って、始めて気付いたのでしょう。

推測でモノを書くフリーライターですか。気楽な商売ですね。
mixiに入会して、私に取材するなりして言質を取ればいいのに。

後出しじゃんけんみたいで非常に心苦しいのですが、この本の発売は把握しておりました。うっかり書店で平積みを見かけてしまいまして。
正直、表紙を見て「ああ、見なきゃ良かった」というのが最初の感想です。
できれば関わりたくないですし、本を手に取る事もありません。
ですので、私のように本の発売を知ることで嫌な気分になる人が出たら気の毒だ、と思いコミュニティで取り上げるのは止めました。
取り上げて、騒ぐのは簡単ですけどね。それはコミュニティの趣旨ではないですから。
出版社さまから思わぬ連絡が来たので、スルーしきれずにこういう事態になった、というのが真相です。


*URLは私のmixiのページです。
連絡を取りたい、という方が万が一いらっしゃいましたら、お手数ですがmixi経由でメッセージをどうぞ。

投稿: ヴィル兄やん | 2009/04/11 2:14:51