双風亭日乗

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2009年3月14日 (土)

「感謝」する人たち

バーで飲んでいると、ときどき「感謝」という言葉を連発している人がいます。
つらいことがある。でも、そのつらさを与えてもらっていることに感謝。そうおっしゃるのはいいんですよ。気になるのは、じゃあ誰がそのつらさを与えているのか、ということです。神様? 会社? 社会?

つらいことがあって、そのつらさから気をそらしたり、つらさを忘れるための方便として、「感謝」って思っても、べつにいいんです。私は、つらいときはつらい。そんなときは、それを他の人に話したり相談したりして、解決しますから。

しかし、その「感謝」の精神を人に押しつけてはいけませんよ。押しつけなくとも、「感謝、感謝」って感謝の大安売りをしていたら、「この人はほんとうに感謝しているのか」という疑念を持たざるをえなくなります。「感謝」の大安売りをするのは、自己啓発とかニューエイジの影響なのでしょうか?

感謝といえば、これまたバーで飲んでいたときの話。女性連れのある年配のおじさまが、私に話しかけてきました。私はひとりでゆっくり飲みたい性分なので、会話するのがめんどうですと正直に答えました。

おじさまは、「最近の若い人は、はっきりものをいうねぇ」なんていいながら、笑っていました(おいおい、俺は若くないよ。44歳のおっさんで、あんたに年が近いんだけどねぇ)。その後、おじさまは、産んでくれた親には無条件で感謝すべきだ、という話をし出しました。

で、私にも「おにいさんも当然、親には感謝してるでしょ?」と同意を求めてくるのです(だから、俺はおにいさんじゃないよー)。たしかに、親がしっかりしている人であれば、親に感謝する人がいたっていいと思いますよ、そりゃ。

でも、世の中には、ただただ産んでくれたからという理由では、親に感謝できない人だって、たくさんいるんじゃないんですか。いつかブログに書きましたが、私は私生児で母親に育てられ、母親は10歳のときに過労で死にました。

そうなると、母親を捨てた父親もどきの男に対しては、感謝はおろか、なんの感情もいだきません。ちいさいころは、逆にその男を恨みまくってました。なんて無責任な奴なのだろう、と。おとなになるにつれ、許すわけではありませんが、どうでもよくなってきました。

いずれにしても、産み育ててくれた母親には感謝しますが、母親を捨てた父親もどきには感謝なんてしません。そのように説明すると、おじさまは「それにしたって、その父親がいなけりゃ、おにいさんはこの世にいないんだから」なんていうわけですよ。

これ以上、お話ししても水掛け論になるので、その場では「そうかもしれませんねぇ」なんてお茶をにごして、会話は終了しました。この「親への感謝」に対する価値が異なるのは、おじさまと私とでは、育った環境があまりにも違いすぎるからなのか、宗教観が違うからなのか。

「子猫殺し」騒動のときにも思いましたが、自分と他人との考え方や価値観の違いを認めるということは、おとなとして当然の振る舞いなのではありませんか。ところが、あるひとつの考え方や価値観がもてはやされていると、それがいつのまにか絶対になり、そうでない人が排除されてしまう。

世の中にはいろんな人がいて、それぞれに複雑な生い立ちがあり、それぞれが多様な本を読み、それぞれが親を含めた他人との出会いを繰り返しています。だから、人はそれぞれ「違う」のが当然なのに、なぜそんなに「同じ」にしたがるのか。

私は、安直に自分と他人を「同じ」にしたがる人を見ると、どうしても敏感に反応してしまいます。無理に「同じ」にしたがらなければ、「それは差異だからしょうがないね」で済む話なのですから。

自分で「感謝、感謝」といって、まるで自己暗示をかけているような人は、まだマシなんですが、「お前も感謝しろ」と押しつけてくる人には、話しかけないでくれといいたくもなります。

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コメント

はじめまして。
浅草に関連するブログを見ているなかで、ついこちらに引き込まれてしまいました。貴記事に同感です。飲み屋で自分の拙劣な価値観を押し付けてくる「大人」ほどイヤなものはないと思います。しかしそういう人は多いですね。それに自分の話ばかり一方的にして相手の話を聞かない人が多いと最近特に感じます。飲み屋で高尚なことを求めるなと言われればそれまでですが、それなら話しかけるなと言いたいところです。知性と包容力を持った魅力的な大人が少なくなりましたね。年齢に人格が伴わない人を見ていると情けなくなります。自分を含めてですが。
最近人真似でホームページとブログを作りました。弱卒ですがお見知りおきいただければ幸いに存じます。

投稿: ライス大森 | 2009/04/05 17:38:03