双風亭日乗

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2009年4月 2日 (木)

茂木さんと佐藤さん

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論創社という出版社のウェブページで連載されている小田光雄さんの「出版クロニクル」という連載は、出版に関心をもつ多くの人たちにより、ブログなどで参照され、言及されています。

私が思うに、小田さんの連載は、日本の出版業界の動向を俯瞰して見るための、もっともコンパクトにまとめられた情報源であり、また業界批評でもあります。

出版社で働く営業さんや編集さんのみならず、書店、取次、コンビニ、キヨスクなど流通の現場で働く人、そして印刷、製本、デザインなどの業者さん、さらには本を書く著者の方々にも、ちらっとでもかまわないので目を通していただきたい連載です。

今回は、2009年2月26日から3月25日のトピックスをまとめた「出版クロニクル 11」のなかの、「サイゾー 4月号」に掲載された記事についての小田さんのご意見を紹介し、私見を述べようと思います。くだんの記事は、特定の知識人の本ばかりが売れるのはなぜか、というネタです。まず、小田さんは7人の著者名と刊行冊数を示します。

20. 『サイゾー』4月号が「最近人気の“知識人”7人彼らばかりがなぜ売れる?」という特集を組み、その7人の書籍刊行数、08年雑誌登場回数、「この人がわかるキーワード」などを列挙している。7人の名前と刊行冊数を引いておく。

・茂木健一郎 全97冊
・勝間和代 全25冊
・内田樹 全85冊
・佐藤優 全85冊
・森永卓郎 全72冊
・香山リカ 全109冊
・斎藤孝 全293冊


そして、以下がこの件に関する小田さんの的を射たコメントです。

[ この7人の名前や著書の新聞広告を毎日といっていいほど見ているような気がするが、よく売れるので、このように多く出版されているのだろう。斎藤に至ってはデビューから10年もたたないうちに300冊近い著作とは、まさに驚異的である。それでも読者は引きもきらず、どこからともなく湧いてくるということなのか。
7人の著書をほとんど読んでいないし、売れない著者の一人でしかないが、それでもあえて述べてみる。90年代の複合大型店によって急速に進行したベストセラーが、かつてと異なる規模で均一化、画一化する環境の中で、7人が「人気の“知識人”」としての地位を獲得したことから、さらに後追いするように編集者と企画も均一化、画一化し、このような現象に至ったのであろう。またそれを支えたのはこれもまた90年代から顕著になった郊外消費社会の住民たちの均一化、画一化であり、7人の売れ方は『小悪魔ageha』の奇跡的な売れ行きと無縁ではないと思われる。その後には何が控えているのだろうか。ここでは多品種少量生産という出版の本来の性格は、その影すらも追放されてしまっている ]

小田さんのコメントとはちょっとずれますが、上記リストのなかで弊社と関連がある(関連がありそうだった?)方がおふたり登場しています。いうまでもなく、茂木さんと佐藤さんですね。

茂木さんが本格的にブレイクしたのは、おそらく2006年にNHKの「プロフェッショナル」という番組の司会を担当されてからだと思います。それ以前に茂木さんが出していた本は、多くても30冊くらいだと思うので、この2年間で70冊もの本を出されたことになります。

一方の佐藤さんがブレイクしたのは、2005年の『国家の罠』(新潮社)の刊行が契機になると思います。それ以前には、数冊の神学専門書を出していただけだと思うので、おそらくこの3年間で80冊前後の本を出されたことになります。そして、佐藤さんの場合は、この間、雑誌連載が15~20誌くらいあるので、実際に書いている原稿の分量は、茂木さんよりも多いと思われます。

そもそも、弊社のようなひとり出版社が、世間で人気の書き手に企画をオファーすること自体、いろんな意味で無謀なことであることは、出版に関わっていない方でもわかると思います。にもかかわらず、茂木さんはオファーに答えてくれず、佐藤さんはオファーに答えてくれました。この「差」は、いったい何なのでしょうか?

個人的にお会いすると、茂木さんも佐藤さんも、ほんとうにいい人なんですよ。だから、人柄みたいなものは、この「差」にはあまり関係がないのかもしれません。すくなくとも、茂木さんも往復書簡の企画段階では、企画した出版社が「小物」かどうかということなど、気にしていらっしゃらなかったように思います。

企画の面で問題がなかったとすれば、あとは編集者としての私の力量が足りなかったということなのかもしれません。茂木さんには、斎藤環さんからの往信が拙ブログに掲載される直前に、インタビューの仕事でお会いして、復信の執筆について確認しました。その後、何度かメールでやりとりし、往信掲載後の2007年6月28日には「往復書簡、今 full steam aheadで執筆中」という連絡をいただきました。しかし、それ以降は、いくらこちらから連絡をとっても、梨の礫(つぶて)となりました。

佐藤さんについては、もともと坂東眞砂子さんのファンであったこともあり、「子猫殺し」反対派の人たちから再び糾弾される可能性のある企画でしたが、こころよく参加していただきました。原稿の締め切りも守っていただけたし、刊行後のトークセッションでもお世話になりました。振り返ってみると、佐藤さんに参加していただけたのは、坂東さんのおかげであり、また佐藤さんとのあいだをつないでくれた新潮社の中瀬ゆかりさんのおかげだったんだと思います。

いずれの企画にもいえることは、私の力量不足なわけですが、茂木さんと斎藤さんの企画ではそれが露呈してしまい、坂東さんの企画ではまわりの方々のご助力によって、なんとか首の皮が一枚つながったということでしょうか。

茂木さんのアクションで、気になることがひとつあります。茂木さんのブログには、大手出版社の編集者から届いたメールが転載されています。「あの本、何刷りになりました。おめでとうございます」みたいなやつですね。あれを目にすると、いくらメールを出しても返事が来ない私は、「茂木さん、けっきょく『小物』は相手にしないのかなぁ」と思ってしまわざるをえません(笑)。ひがんでも、仕方ないんですけどね。同時に、「小物」と真剣に向きあってくれた斎藤さんに、申し訳なくて仕方ありません。

茂木さんの単著を企画していて、それがポシャったのなら、おそらくこんな思いにもならず、スパッとあきらめていたんでしょう。

ひとり出版社を営む私の場合、企画の一つひとつに「明日の飯」がかかっています。ですから、企画に賛同してくれた著者から「途中で、やーめた」といわれると、死活問題に発展します。だからこそ、いったんやると決めた企画については、よほどの理由がないかぎり全力投球します。それだけに、著者の姿勢というものがよく見えるわけです。

いろんな媒体で茂木さんの名前を拝見したときに、私が考えることは、いまさら弊社の企画についてはどうでもいいけれど、復信の執筆を約束しておきながら放置したことに対して、斎藤さんにはちゃんと謝っていただきたいということです。

本を何冊も出し、テレビにたくさん出演し、世間がいくら人気者の称号を与えたとしても、斎藤さんへの対応をきちんとしないかぎり、残念ながら私は、茂木さんのことを「そういう人」なんだと思わざるをえません。

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コメント

こんなに刺激的な企画は絶対にポシャらせてはなりません。
期待しています。

投稿: 読者 | 2009/04/08 12:06:10

この企画に関しては、すでに「クオリア」の是非や「脳は心を記述できるのか」という問いのみならず、ものを書く人の姿勢や信頼性をも考察せざるをえないものとなりました。

クオリア、および脳と心の問題は、やりたい放題で放置しておくとろくなことにならないと思っています。タイトルに「脳」ってつけると本は売れる、みたいな勢いで本がたくさん刊行されているのもどうかと思います。

タイトルに「東大式」とつけたりするのとおんなじです。最近では、「貧困」もそんな具合に使われているような気がします。本多勝一さんではありませんが、まさに「貧困なる精神」。

長いスパンで企画の実現を考えられればと思っています。確実に、いろんな意味で、出したほうがいい本だと思いますので。

投稿: lelele | 2009/04/08 23:06:02

皮肉な見方をすれば、茂木さんの「そういう人」な一面を暴き立てただけでも、この企画は成功したといえるんではないでしょうか。

だが、マジメに答えれば、この企画は絶対に成功させてほしい。正直、斎藤さんの往信でよくわからない部分があり、相対的に理解するためにも茂木さんのお返事がないと。斎藤さんの往信を読んで、知的にも刺激的なモノになりそうなので楽しみにしていたのですが。最近は茂木さんのテレビ出演、新刊を目にすると「あの企画はどうなってんだ」と思ってしまいます。茂木さんのfairness(公平、公正)を期待しています。

投稿: 1人の読者 | 2009/04/16 1:13:38

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