双風亭日乗

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2010年3月24日 (水)

『オシムからの旅』 2

木村さんは、あるときからユーゴに足しげくかようようになり、当地のサッカーに惚れこむようになります。しかし、サッカーの取材で各地を歩き、選手の話を聞いているうちに、ユーゴの複雑な民族構成と歴史に関心を持つようになりました。

さらに、長期の取材をつづけるうちに、ユーゴ内の各地で紛争が勃発。ユーゴは連邦国で、いくつかの共和国の連合体なのですが、90年代後半からつぎつぎに共和国が連邦から離脱して独立します。まさに、木村さんは、ユーゴ解体という激動する現代史の現場に立ち会い、取材をつづけてきました。

そんな木村さんは、ユーゴ三部作と呼ばれる作品を出しています。ストイコビッチの半生を記した『誇り』、ユーゴ各地のサッカー選手らへの取材をとおしてユーゴの実状をあぶりだした『悪者見参』、そして綿密な取材でその人物像と含蓄のある言葉の意味を示した『オシムの言葉』の三冊ですね。

これらは、どれもユーゴのサッカーが入り口になっているし、ユーゴのサッカー選手や監督に焦点を当てている作品なのですが、一方でどの本もユーゴの現代史、とりわけ民族主義とは何かということが主題になっています。つまり、ユーゴを語る際、サッカーと現代史には深い結びつきがあるということです。

『オシムからの旅』は、そういった木村さんがユーゴしてきたお仕事をまとめた「集大成」(木村さん談)ともいえる本になっています。まず、巻頭ではユーゴの現代史、とくになぜ連邦国が消滅してしまったのかということを、わかりやすく解説します。第一章ではストイコビッチにスポットを当て、第二章ではオシムの半生をたどることにより、ふたりの人物像を描くとともに、サッカーとユーゴの歴史のつながりを確認します。

そして、第三章では、ユーゴのサッカーや歴史との出会いは、木村さんをどう変えたのかが徹底的に語られます。とりわけ、木村さんはユーゴで見た「民族主義」とはなんだったのかを考えたうえで、自分の足下、すなわち日本の姿を見直す作業を、この本でおこなっています。基本的に中学生向けの本ですから、読みやすい内容です。総ルビですし。

すでにJリーグは開幕し、ストイコビッチの姿もちらほら見かけます。また、6月からはW杯がはじまり、オシムが解説者として活躍することでしょう。

そんな彼らが、どんな国でどんな人生を歩んできたのか?
サッカーシーズンが到来したいまこそ、みなさんに知っていただければと思っています。

<おわり>

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受信: 2010/06/09 2:05:08

コメント

谷川さん、この動画はご覧になりました?(笑)
http://www.youtube.com/watch?v=e49O3h__Hbo&feature=related

http://www.youtube.com/watch?v=8Uz9bwRGu2g

木村さんの本が御社から出る日があったらいいなあ、なんて思わず夢想しました。藤井誠二さんにも『コリアンサッカーブルース』という名著がありますが、Jリーグでも、移籍ルールの変化もあって、北朝鮮/韓国代表のFWが暴れまくってますし、アジアと社会をサッカーから語る本なんてのも面白そうですよね。

ありそうで意外とないんですが・・・。

投稿: Lee | 2010/03/27 17:43:30

もちろん観ました!
ありゃ、ストイコビッチじゃなきゃできないって、木村さんもいってましたよ。

投稿: lelele | 2010/03/27 20:12:52