双風亭日乗

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2010年3月 2日 (火)

日本の神父はだいじょうぶなのだろうか?

いろいろ事情がありまして、昨年9月くらいからブログが更新できませんでした。本日から、更新の頻度をあげていこうと思います。なにとぞよろしくお願いいたします。

さて、東京以外の読者は視聴できないので申し訳ないのですが、東京MXテレビというローカルのテレビ局があります。このブログでも紹介した「5時に夢中!」というおもしろ番組をつくったり、「元祖天才バカボン」「タイムボカン」といった古いアニメを流すなど、キー局とはひと味ちがった編成で勝負しているテレビ局です。

同局の番組で、なによりも楽しみにしているのが「松島×町山 未公開映画を観るテレビ」(毎週日曜の23-24時)です。日本で公開されていない海外のドキュメンタリー映画を、1本を二週に分けて放映しています。町山智浩さんの選択ですから、まちがいなくおもしろい映画ばかり観ることができるんですよ。

先週の日曜と一昨日の二回にわたって放映された映画は、『DELIVER US FROM EVIL』(2006年)。以下、番組ウェブページから内容紹介を引用します。

神父が危険な少児性愛者であると知りながら、彼をかばい続けた教会。その後30年間にわたって、神父は子供たちを虐待していく…。本人、被害者たちのインタビューも収録した、衝撃的なドキュメンタリー。

たしかに衝撃的でした。ある夫婦が信頼しきって自宅に泊めていた神父が、その夫婦の子どもに性的虐待をしていた。その神父は、ほかの多くの子どもに対しても性的虐待を加えていたものの、カトリックの本山であるバチカンはその事実を徹底的に隠蔽……(あとは映画をご覧になってください。英語版はこちら)。

アメリカにおける神父(カトリックは神父、プロテスタントは牧師です)による子どもへの性的虐待は、2002年に大問題になったそうです。まったく知りませんでした。これだけの大問題も、チャンネルが違ったり関心がなかったりすると、頭の中に入ってこないものなのですね。

子どもに対する神父の性的虐待がアメリカで騒がれたことによって、世界各国でも被害者が声をあげるようになったようです。そうなると、日本はどうなんだろう、という素朴な疑問がわいてきます。

さて、ある心理学者が番組で、神父の場合は神学校という特殊な環境が、神父がペドファイルになる原因のひとつだといっていました。原因は、いろいろなものが複合しているのだとは思いますが、そういった神父個人の性癖と、「まさか神父が……」と思っている信者の思いこみが、ある意味では教会を子どもの性的虐待の場へと変えてしまったように、番組からは感じました。もちろん、悪いのは、思いこむ信者ではなくて性的虐待をする神父です。

番組を観ていたら、ある既視感をおぼえました。多くの子どもに性的虐待をくわえ、懲役刑をくらったあと、国外に退去させられた元神父が、虐待していた当時を述懐してこういうのです。人間だれしも「よいときも悪いときもある」。悪かった過去にしばられていたら、なにもはじまらない、と。

私は、まったく同じ言葉をカンボジアで聞きました。語ったのは、ポル・ポト時代の中部管区書記(日本でいえば、大臣並みの力を持つ要職)で、1970年代後半に東部の住民を大量に虐殺したとされるケ・ポク。彼に虐殺の責任を問いただしたところ、やはり「よいときも悪いときもある」といっていました。

たしかに、それはそうですよ。ごく普通の人だって、調子がよいときもあるし悪いときもある。しかし、多くの子どもに性的虐待を加えた神父や、万単位の人を殺す指揮をとった人が、それをいったらおしまいなのではありませんか。その言葉を受けいれてしまったら、被害者に対する責任の所在がどこかに飛んでいってしまいます。

おそらく、「よいときも悪いときもある」というのは、かなり普遍的な責任逃れの方便なのかもしれませんね。まあ、ごく普通の人がそう思って、明日への励みにしているぶんには、なんの問題もないと思いますが。

ところで、私自身がそういう性癖があるというのではなく、世の中にかならず存在すると思われる小児性愛(ペドファイル)者について、私は強い関心を持っています。子どもへの性的虐待はいうまでもなく犯罪であるなか、おとなである彼らは、どうやって自分の欲望を抑えているのだろう。そして、満たしているのだろう。社会は、彼らの存在に気づいているのだろうか。いろいろ知りたいことがあります。

そのうち、そういう本も出せたらなあ、と思っているところです。

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コメント

お久しぶり。
性的虐待か。以前、このテーマで書籍を書かないか、と言われましたが、出版社内の企画会議でだめになったことがありました。

実は、私、このテーマをずっと書きたかったんですよね。
一時期は、当事者をずっと取材していました。
leleleさんに出会う前のことです。
今から10年くらい前かな。

いまは、自殺にシフトしていますが、
なぜ、このテーマを書きたかったのかを思い出すと、不思議なものです。
いまでも書きたいテーマでもあります。

かつて、オンラインで、このテーマで、フレーミングがあったこともありました。
援助交際を取材していたときでしたね。
援助交際をしている女の子の中にも、被害者がいるんです。
その子は、被害を打ち消そうとして、援助交際をしていました。

いろいろ奥深いものがあります。

投稿: 渋井 | 2010/03/02 11:48:45