双風亭日乗

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2010年6月 5日 (土)

イルカ猟を批判する映画の上映が中止になった件

毎日新聞によると、和歌山県太地町のイルカ漁を批判的に取り上げたルイ・シホヨス監督のドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」が、東京で上映されなくなったそうです。

米映画:「ザ・コーヴ」都内上映館ゼロに イルカ漁批判(毎日新聞、2010年6月4日)

同作品がアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞した直後、「首相の靖国神社参拝を求める活動など」をしている「ある団体」から、配給会社のアンプラグドに電話が入り、上映に圧力をかけるようなやりとりがあった。さらに、4月になると、同社の社長宅周辺で、同団体が抗議行動をおこないました。

この「ある団体」のやっていることは、最低だと思います。ていうか、他人の表現の自由を暴力で侵害し、それを認めていたら、自分たちの表現の自由も、他人の暴力によって侵害される可能性があるわけですよね。それとも、自分たちの暴力は最強だから、誰からも脅されないと思っているのでしょうか。

まったく同じことを、坂東さんの「子猫殺し」コラムが糾弾されたときにも思いました。自分の表現の自由を担保するためには、他人の表現の自由も認める。そんなの超当たり前のことすぎて、ここで書くのが恥ずかしいくらいです。

「ザ・コーヴ」の内容については、アカデミー賞受賞時の報道などで、ある程度は知っています。自分らが気に入っている動物のみを過剰にえこひいきしている点で、シー・シェパードやグリンピースの活動と親和性のある映画だと思いました。つまり、私は「ザ・コーヴ」という映画の内容に批判的な立場です。

しかしながら、映画館で上映することには、なんの抵抗も感じません。観たい人が観ればいいし、観た人がどう感じるのかは、観た人にまかせればいい。「反日映画の上映は許せない。中止を求める」なんてちんけな理由で圧力をかけられたうえで、上映を中止にする必要など、まったくないと思います。

だからといって、上映の中止を決定した配給会社や映画館を責める気にはなれません。配給会社や映画館の社長さんに「表現の自由を守れ! 上映を中止するな」なんて、私は無責任にいえません。この問題のポイントは、「ある団体」による暴力にあり、その暴力がガマンの限度を超しているのですから。

圧力をかけるような電話を入れたり、抗議活動をしたり、その活動を予告する「ある団体」の行為は、あきらかに「質の悪い暴力」です。ですから、問題の核心は、質の悪い暴力を平気でふるってしまう人たちがいることであり、その暴力を見たり聞いたりしても、見て見ぬふりをするこの社会にある、ということだと思います。

そう思いつつ、この社会には暴力が満ちあふれ、暴力を完全に排除することなど、おそらく不可能だと私は考えています。また、暴力をすべて否定するわけでもありません。あくまでも、「質の悪い暴力」については、気づいたときにどうにかする必要があると思うのです。

でも、文字や言葉でふるわれる暴力を考える際、どこからが暴力で、どこからが暴力でないという判断は、意外にむずかしいものです。そのへんは、ケース・バイ・ケースで判断するしかないと思いますが、「子猫殺し」コラムを糾弾した人たちの言葉も、「ある団体」の振る舞いも、「質の悪い暴力」という意味では似たりよったりなのではありませんか。


※上記は、ツイッターに記した文章を転載したものです。

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イルカ猟を批判する映画の上映が中止になった件:

» 表現社会の作法-"The Cove"についての感想 トラックバック Leeの雑記帳
たびたびコメントさせてもらっている双風舎のブログで、大変気になる記事がありましたので、引用の上、 コメントめいたことを。 事件の概略については、双風舎の谷川さんが簡潔にまとめてくださっているので、引用しますと・・・。 毎日新聞によると、和歌山県太地町のイ..... 続きを読む

受信: 2010/06/08 15:15:02

コメント

『コーヴ』については、概略を案内を見て知っただけでも、こんなもんがアカデミー賞取るんだ、という感想しかなかったのですが、見てみないことには何も言えないし、どういう視点で批判をしているのかは知っておきたいところですね。

それにしても、『靖国』のときはあれほど上映中止について騒いでいる人がいたのに、『コーヴ』についてはちょっとテンションが違っているような感触があります。mixiのマイミクさん(100人ほどいますが)の誰もこの件について日記を書いていない、という材料からそう思うだけなんですけど、『靖国』のときは10人くらいは日記に書いてたんですよね・・・。

そういうスポット限定風速調査みたいなことで日本社会全体の状況は推測できませんが、これは、『コーヴ』の内容ゆえか、それとも、思想の自由市場を存続させていきたいという意思の後退ゆえか、そのあたりが大変期になります。

投稿: Lee | 2010/06/06 5:06:44

゛ある団体゛がどの様な方々かは分かりません。
しかしこの映画製作者の様に、撮影の為漁師に嘘をついたり、シーシェパードの様に暴力で訴えてるわけではない。
この映画にその様な背景があった為、異論を唱えたのではないでしょうか?
それさえも否定する事こそ言論統制だと思いますよ。

投稿: さはら | 2010/06/07 8:41:37

Leeさま、「関心の度合い」の温度差は、「思想ネタ」(「靖国」)と「動物ネタ」(「ザ・コーヴ」)の違いであるような気がします。なんとなくであれ、「イルカがかわいそう」と思っている人が、意外に多いのかもしれません。そういった「なんとなく、かわいそう」派は、「映画の上映中止はけしからんが、イルカはかわいそう」というわけで、結果として「静観」になってしまうんでしょうか。

さはらさま、論点がズレています。私が問題視するのは、映画の内容うんぬんではなく、「ある団体」が映画の上映を中止させるような行動をとったことです。「ある団体」が映画の内容に「異論を唱え」るのはけっこうですが、上映中止の抗議活動はあきらかにやりすぎだと思います。つまり、「ある団体」は、内容に異論を唱える程度にしておけばよかったのではありませんか。

投稿: lelele | 2010/06/07 12:04:59

UNFAIRなやり方で作られUNFAIRな宣伝で賞を取った映画が当の日本でUNFAIRな圧力に合うのは事前に分かっていたことだし覚悟の上での公開だったはずです。今になって泣き言をいうのは配給会社がおまぬけだったとしかいいようがありません。

「表現の自由」を旗印にUNFAIRな映画を公開するのなら、どんなUNFAIRな妨害をされても「表現の自由」という旗を命と引き換えでも守りきらなくてはいけません。理念とは自分を守ってくれるものではなく、自分で戦って守るものなのだから。

もしシンポジウム形式の上映会で地道に地盤を固めてからの少数館公開だったらここまで妨害されなかったと思います。批判や反論にもきちんと耳を傾けるという姿勢を制作者(と配給)側がみせていれば、それが一定のガス抜きになっていたでしょうに。それを憲法21条だの表現の自由だの知る権利だのとタテマエの理念で批判者をねじ伏せようとする(ように見えてしまう)からしっぺ返しをくらうのです。

投稿: TKN | 2010/06/07 12:18:15

私は、「表現の自由」という旗を、命と引き換えにしてまで守る必要はないと思います。だからといって、「命、たいせつに」なんてのんきなことをいっている人たちを支持しません。単に、「表現の自由」と命とを引き換えにするのなんて、馬鹿らしいと思うからです。

何度もいいますが、「ある団体」のやっていることは、総会屋とかエセ同和に暴力の味付けがくわわったような「脅し」であり、そんな彼らの振る舞いは「言論の自由」以前の問題として、容認してはならないと私は考えます。

投稿: lelele | 2010/06/09 2:25:41

はじめまして

ある団体は勇気ある行動をしてくれていると思います
映画には批判的な立場だが上映中止は言論の自由を侵しやりすぎと思う…とのことですが

そもそも言論の自由があるからこそ日本人を偏った視点で撮影した映画に抗議するのは理屈が通っているのでは

抗議もせず安全な場所から高説のみ振りかざしても何も変わりませんよ

世界のスタンダードは自分の意見を口に出して主張することです

暴力行為に及んでいるわけではなく日本人として誇りを持って行動を起こしてくれたある団体に私は感謝していますよ

以上

投稿: しんや | 2010/06/09 8:14:45

>そんな彼らの振る舞いは「言論の自由」以前の問題として、容認してはならないと私は考えます

その指摘はむしろ映画制作者にこそ当てはまるとは思いませんか。非合法手段による映画を作ったのなら非合法手段による圧力も覚悟していなくては話になりません。それを「言論の自由」などというタテマエに話をすり替えて自己宣伝・正当化に使おうとしている(ように見える)からこそ批判の声が止まないのです。

例えば東京国際映画祭についてこの監督はずいぶんアサッテな批判をしていませんでしたか去年。「日本政府の圧力で出展しても上映させてもらえない」とかなんとか。あの映画祭は国の機関は関わっていなくて民間企業のグループが主催者なのを捻じ曲げた発言をしていたのに、上映後未だにその釈明すらない。「言論の自由」には「その言論に対して批評・批判も受ける義務」もともなうのですが。

投稿: TKN | 2010/06/09 14:36:04