双風亭日乗

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2010年6月 9日 (水)

暴力の線引き

「イルカ猟を批判する映画の上映が中止になった件」というエントリーに、いくつかコメントをいただきました。この話題については、いろんな見方があるんだなあ、と実感しているところです。

映画「ザ・コーヴ」の内容については、生き物のなかからイルカをえこひいきしたうえで、長い歴史のあるイルカ漁を安直に批判しているという点で、私自身は否定的な印象を抱いています。

つづいて、フェアーでない取材・撮影で映画がつくられた点については、原則的にはフェアーなかたちで取材をしたほうがいいとは思います。その点でいえば、「ザ・コーヴ」は問題ありです。

しかし、取材者の側に立ってみると、フェアーなルートでは取材できない場合など、現実的にはカネやコネなどの裏技を使わざるをえないこともあります。ですから、フェアーでない取材でつくられた映画だ、という点において、「ザ・コーヴ」という映画を私は問題視しますが、ときにはフェアーでない取材をせざるをえないという点については、すべてを否定するわけではありません。

ところで、なにかの善し悪しを判断する場合には、世界的・人類的に不偏な善し悪しの基準と、地域や国によって異なる善し悪しの基準があると思います。「映画」という表現については、エロ表現に見られる「どこまで見せてよいのか」という許容範囲の多様さが象徴的ですが、まさに地域や国によって異なる善し悪しの基準が適用されるものになるでしょう。

で、「ザ・コーヴ」については、アカデミー賞の影響力があるような国や地域のなかでは、たとえアンフェアーな取材にもとづいてつくられた作品であるとはいえ、上映はOKということになった。

そのOKという判断を、そのまま日本に持ち込むのはどうかと思います。でも、フェアーでない取材によりつくられ、日本の伝統や文化を否定するような作品を、なぜ上映OKにする地域があるのか、ということを考えるためには、その作品を観てみるしか方法がないと思うのですが、いかがでしょう。

そして、映画を観て、「イルカがかわいそう」と思うのも自由ですし、「日本の伝統文化をフェアーでない方法で取材してつくった駄作」と思うのも自由。いずれにしても、観なければなにもはじまりません。

上記のエントリーでは、以上の考えをショートカットしたうえでを書きました。長々と書く必要もない、と考えたからです。そんなわけで、私が上記のエントリーで力点をおいて書いているのは、暴力によって言論を封じ込めるような振る舞いはけしからん、という部分となります。

以下に、毎日新聞の記事全文を転載しますが、「4月になると、社長の自宅前や事務所の周辺でマイクを使った抗議活動が早朝から行われるなど、抗議活動がエスカレート」とか、「街頭宣伝や抗議活動の実施を予告」といった振る舞いが、コメント欄で指摘されているように「暴力行為に及んでいるわけではなく」などと、どうしていえるのかが私にはよくわかりません。

ここでは、どこまでなにをやったら「暴力」なのか、が問題になるかと思います。世の中にはさまざまな暴力がまん延していますが、暴力を黙認したり放置していることもあるということは、すこし考えれば誰にでもおわかりになると思います。さらに、なにが暴力なのかという判断は、人によって異なるし、国や地域によっても異なります。

とりあえず、私のなかでは、「ある団体」の振る舞いは暴力であるように見え、その暴力で映画の上映に圧力をかけるのは問題だと思っているわけです。あとは、そういった思いを共有できるがいるのなら、一緒に「ある団体」を批判していけばいい。そして、私は自分の考えが「絶対」などとは微塵も思っていませんので、私の考えを批判したい方はすればいいと思っています。

ただし、その批判は非暴力的なかたちでね(笑)

では、最後になりましたが、毎日新聞の記事を転載します。

米映画:「ザ・コーヴ」都内上映館ゼロに イルカ漁批判

 和歌山県太地町のイルカ漁を批判的に取り上げた米ドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」(ルイ・シホヨス監督)の上映中止問題で4日、東京と大阪の2館も中止を決め、東京都内での上映館はなくなった。2年前にドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映中止が相次いだ際は、街宣活動実施後に中止が決定されたが、今回は抗議活動の予告だけで中止の動きが広がり、表現の自由の萎縮(いしゅく)を懸念する声が上がっている。

 「反日映画の上映は許せない。中止を求める」。今年3月、ザ・コーヴの配給会社「アンプラグド」(東京都目黒区)に、ある団体から電話が入った。この団体は、首相の靖国神社参拝を求める活動などをしている。電話は、米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した時期に重なる。

 4月になると、社長の自宅前や事務所の周辺でマイクを使った抗議活動が早朝から行われるなど、抗議活動がエスカレート。同社は抗議活動の中止を求める仮処分を東京地裁に申請し、認められた。

 ただ、最近までは東京や大阪などの全26館での上映方針に変更はなかった。中止のきっかけは、この団体がホームページで今月2日、上映を予定していた「シアターN渋谷」や同館を運営する出版取り次ぎの日本出版販売(東京都千代田区)に対する街頭宣伝や抗議活動の実施を予告したことだった。3日に中止を決めた同社は「観客や近隣への迷惑がかかる可能性があり、上映を中止した」と理由を話す。

 また、4日に中止を決めた東京の「シネマート六本木」と大阪の「シネマート心斎橋」を巡っては、両館を運営する「エスピーオー」の関連会社に対し、5日に街宣活動するとの予告があった。エ社は「関係各所に迷惑をかける可能性があるため」と中止を決めた。関係者は「自宅への抗議が中止の大きな要因になった」と明かす。

 フリージャーナリストの綿井健陽さんは「こんなに簡単に中止が決まっていいのか。『面倒な映画の上映はやめておこう』という萎縮を生みかねず影響は大きい。上映を待ち望んでいる人もいるという声を関係者に伝えることが重要だ」と指摘する。

 シホヨス監督は4日、「一部の過激な人たちが東京の映画館を脅かしていることを知り大変残念だ」とのコメントを発表した。

(毎日新聞 2010年6月4日 20時58分)

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