2010年7月28日 (水)
電子、電子っていうけれど……
電子書籍や電子出版について、連日連夜、いろんな人がいろんなことをいっています。一応、業界のはしっこにいるので、そういう情報には目をとおすわけですが……。
ん~、どうなのでしょう。そもそも、いまのところ私自身が電子書籍を買う気になれないというのもありますが、ちょっと騒ぎすぎなのではありませんか。「電子、電子」って、なんとかのひとつ覚えみたいに。
しばしば、アメリカの事例を根拠に、日本の出版物がどんどん電子化されていくみたいなことをいう人を見かけます。しかし、アメリカと日本の出版事情って、ぜんぜん違うんですよ。書店の数や取次の有無などふくめて。
アメリカのアマゾンで、電子書籍の売上が紙の書籍のそれを上回った、と報じられました。でも、アメリカのアマゾンと日本のアマゾンでは、あつかう商品の性質も流通も異なるのですから、簡単に「アメリカの次は日本だ」なんていえないでしょう。
日本の出版業界は、しばらくのあいだ、本の電子化に抵抗をしめしていました。姑息だとは思いましたが、電子書籍というものが、先が読めないもの、いわば幽霊みたいなものに感じられ、怖くて手を出せなかったという気分になるのは仕方がない。
とはいえ、いまや大手から中堅まで、多くの出版社が「試験的」に電子書籍の販売をはじめています。そして、あくまでも私の知る範囲での情報ですが、それらはことごとく、あまり売れていないようです。
けっきょく、はじめは怖くて手が出せず、勇気を出してやってみたら、うまくいかなかった、というのが日本における電子書籍販売の実状なのではないか。想像の域を出ませんが、私はそう考えています。
今後のことは、わかりません。もしかしたら、日本人にも電子書籍がなじみ、需要が増えるのかもしれません。弊社だって、そうなったら出遅れないように、準備だけはしておきます。
でもね、本を出す組織として、本質的に考えなければならないことのプライオリティは、現状では「いかに電子化に対応するか」よりも「いかに読者に買ってもらえる本を出すか」でしょう。それを忘れて、電子化に踊らされたら、出版に関わる者としては、まったくもって本末転倒です。
「電子、電子」と騒いでいる人たちは、電子書籍というものの存在を日本人に啓発し、電子書籍業界がもうかるようなマーケティングをしているという意味では、よくやっているなあと思います。でも、私は彼らと一緒に踊る気がしません。いまのところは。
日乗 | 固定リンク | コメント (7) | トラックバック (1)