双風亭日乗

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2010年9月16日 (木)

昨日、茂木健一郎さんがツイッターで『脳と心』を紹介してくださいました。ありがとうございます。

kenichiromogi Sep 15, 12:29pm via Web

斎藤環さんとの往復書簡です。なれ合いなし。ガチンコ。本気(マジ)になっています。『脳と心 クオリアをめぐる脳科学者と精神科医の対話』 http://amzn.to/bU9C4A
この本は、ぜひ茂木さんの読者に読んでいただければと思っています。というのも、斎藤環さんが同書のなかで語っているように、茂木さんは、けっして「脳科学を元に新しい価値を説く人」などではないからです。もし、読者がそう思っているなら、それは誤解だと思います。

茂木さんは、「まじめで、フェアーで、ユーモアが通じ、新たな可能性を探り続ける脳科学者」だ、ということが、この本を読めばご理解いただけると思います。

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2010年9月 9日 (木)

「痛いニュース」で、「【JAL】 内定です→入社は卒業後になります→(学生卒業)→君達は入社できません→派遣屋を紹介します」という記事と、それに対する2ちゃんねるのコメントが掲載されていました。

ようは、JALグループのジャルエクスプレスという会社が、自社養成のパイロット訓練生として入社予定だった内定者26人に内定を昨年中に出し、今年4月に大学を卒業してからは8月採用だと伝え、さらに11月採用になったといっておきながら、最終的に内定を取り消していたという話です。

内定を取り消したことについては、どう割り引いて考えてもジャルエクスプレスが悪く、内定者には微塵の否もないことはあきらかです。昨年中に、大学を出たら雇うと同社は約束していたのに、卒業してから雇うのをやめたというのですから、とんでもない話です。

記事の内容を読んでから、2ちゃんねるの反応を読むわけですが、後者を読む前までは、きっと多くの人が同社のトンデモぶりを叩いているのだろう、と予想していました。しかし……。

読んでいて悲しくなりました。JALの業績悪化は明らかなのに、その関連会社に入ろうとするのがいけないとか、入る会社の業績くらい就職前に調べるのが当然とか。つまり、そんなことを書いている輩は、内定が取り消しになったのは内定者の自己責任だ、といっているわけです。

会社の悪行さえも自己責任に転嫁できてしまうほど、キミたちは資本主義社会、それもネオリベ的なそれの従順な犬になってしまったのか。

いまは、最近の円高を見ればわかるように、どんな会社だって、いつ業績が悪化するのかなんてわからない時代でしょう。それも、ちゃんと仕事をしていても、みずからの力とは関係ないところでさまざまな要素が働き、業績が悪化したりする。

ましてや、自社でパイロットを養成している会社など、限られています。業績うんぬん以前に、自分の夢や希望を追求した結果として、同社の内定を取りつけた人が、内定者のほとんどだったのではありませんか。

繰り返しますが、同社が内定を取り消したことが、内定を取り消された人たちの自己責任などという理解は、ゆがんでいるし、事実誤認だと考えざるをえません。同社は、徹底的に社会から叩かれるべきであり、内定を取り消された人たちは、社会に守られるべきだと私は思います。

こういうときこそ、2ちゃんの住人たちが「ジャルエクスプレス叩き」で活躍するときなのではないか、と期待していたのですが。残念です。

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2010年9月 4日 (土)

『脳と心』のタイトルについては、いろいろ悩みました。しかし、「これだけは避けよう」と心に決めていたことがあります。それは、第一に脳と心がつながっていることを想起させるようなもの、第二に脳をどうにかすれば何かが簡単によくなると思わせるようなもの、のふたつです。

そういうタイトルの脳がらみの本は、かなりの数で出回っていると思います。ある意味で、「街場」ってつければ中身はなんでもいい、というようなスタンスと似たようなタイトル付けだけは、したくありませんでした。

上記の2パターンに該当する脳の本は、「ゲーム脳」からはじまって、「男脳、女脳」、「なにかをすると脳にいい」などなど、ようは読者が知りたい情報があって、それを還元するかたちで、脳にからめて話を進めていく、というものがほとんどです。

でも、『脳と心』で茂木さんが認めているように、脳科学の最先端であっても、脳は心を記述できるかわかっていない(脳と心がつながっているかどうかわからない)現状で、脳と心がダイレクトにつながっているような表現や、脳をどうにかすれば心がどうにかなるような記述をすることは、大きな問題だと私は考えています。

同書の「まえがき」にあるように、誰にでもあり、重要な身体の部分なんだけど、なんだかよくわからない。それが、脳です。だからこそ、読者には脳を知りたいという欲求があり、その欲求に答えるかたちで出版社が脳の本を出しているわけです。

ただし、読者の欲求に答えるのはいいけれど、内容をしっかりと検証もせずに刊行し、まちがった内容を読者に伝えるのは、不誠実な態度といわざるをえません。そういう傾向の本があふれているから、私は斎藤さんと茂木さんにお願いして、脳と心に関する議論をしていただいたのです。

つまり、『脳と心』という本の使い道のひとつは、そういった脳を扱う凡百の本が、うさんくさいかどうかを見極める際のものさしになる、ということです。この本(プラス山本・吉川著『心脳問題』朝日出版社刊)を読んだうえで、ぜひ脳がどうこうという他の本を読んでみてください。

もちろん、わかってもいないことは禁欲して書かないで、脳について語っているすばらしい本もあります。仮説は仮説だと、しっかり宣言したうえで書かれている良心的な本もあります。でも、わかってもいないことを、わかったようなふりをして書いている脳関係の本が、かなり多く出回っています。

そこで、誠に僭越ながら、ぜひ出版各社の編集者、それも脳関係の本を担当している方々に、『脳と心』を読んでいただきたい。で、著者と打ち合わせるときに、「あの本にはこう書いてありますけど、先生、これ、書いちゃって、だいじょうぶですか?」と著者の勇み足を止める役目になっていただけたら、うれしいですね(笑)

まあ、そんなことをつらつらと考えながら、やはり「脳」の茂木さんと「心」の斎藤さんが対話しているのだから、「脳」と「心」というタイトルがよいのではないか、と思いついたのでした。めでたし、めでたし。

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