双風亭日乗

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2010年11月 1日 (月)

連鎖する憎悪をどう断ち切るのか

ようやくNHKスペシャル「貧者の兵器とロボット兵器~自爆将軍ハッカーニの戦争」を観ることができました。ひとつの戦争における敵と味方の格差を、兵器という面から見つめた秀作ドキュメンタリーでした。

タリバンの自爆テロによって、いまだに自国の兵士の死亡が続くアメリカ。その対策として開発され、使用されるロボット兵器の数々。一方、タリバンの最強硬派で、ハッカーニ将軍が率いる「ハッカーニ・ネットワーク」は、旧ソ連製の自動小銃であるカラシニコフ(AK-47)など、安物の兵器しか持っていない。よって、アメリカのロボット兵器に対抗するために、自爆テロでの攻撃をさらに強化する……。

番組では、この地獄の連鎖ともいえる光景を詳細に報告します。300万人の雇用を支えるアメリカ兵器産業。その稼ぎ頭ともいえるロボット兵器。そして、その兵器をアメリカからの遠隔操作で、アフガニスタンで使いこなすパイロットたち。それゆえに生じる誤爆。異様な光景です。

空を飛ぶロボット兵器に対抗できる武器を持たないタリバンは、さらなる自爆テロの強化を唱い、貧困な集落の人々、とりわけ子どもを自爆用のテロリストとして養成しています。とくに、誤爆された集落では、たとえタリバンのシンパでなくても、人々の憎悪の対象がアメリカに向いてしまう。

私が番組を観ていて感じたのは、アメリカの対アフガニスタン政策(というか、対タリバン、対アルカイダ)への違和感です。兵器産業を振興するためにロボット兵器を生産し、それを戦地で使い続ける。兵器を消費するために、戦争をし続ける。兵器産業における300万人の雇用は、重要なものであることは理解できます。しかし、アメリカ人の雇用維持や兵器産業の振興、そしてアメリカの威信のためにし続ける戦争など、なんの意味があるのでしょうか。

もちろん、それに対するタリバンらのやり方にも、大きな問題があります。子どものころから特定の思想を埋め込み、命を投げ出してでも自分たちの組織を守らせるなんてことは、とんでもないことです。ポルポト時代のカンボジアでも、子どもが兵士やスパイとして養成されました。ようは、おとながなにを教えるのかによって、子どもはその存在自身が凶器になりうる。そんな事例は、歴史を振りかえれば、いくらでも見つかります。

憎悪がまん延し、明確かつ強力な敵がいるかぎり、この戦争は終わらないでしょう。じゃあ、どうすればいいのか。簡単には答えは出ません。いずれにしても、第一にアメリカがみずから、明確かつ強力な敵であることを降りることは、かならず必要になるような気がします。タリバンやアルカイダが戸惑うような状況をつくりだすのです。第二に、お互いの言い分を認めたうえで直接対話をおこない、すこしずつ妥協点を見つけ出していく。

「そんなことは、うまくいくはずがない。ロボット兵器の生産をやめたら、300万人の雇用はどうするんだ」。そういわれたら、私には返す言葉はありません。それでも、二者間で連鎖する憎悪は、どちらかが憎悪の対象でなくなることを目指す以外に、解決の方法がない。連鎖する憎悪を、どちらかの一方的な力で断ち切ることは、ほとんど無理であるように思えます。

ベトナム戦争のときにもかいま見られましたが、アメリカには、兵器産業を振興・維持することそのものが、戦争を続けるモチベーションになる。そういった「伝統」みたいなものがあるような気がします。こんなくだらない伝統から脱却することこそ、憎悪の連鎖を断ち切るための効果的な方策なのかもしれません。

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