夕刊ガジェット通信に書いた「『花王』を生け贄にして何がおもしろいのか」について、いろいろなご意見をいただいております。というか、その多くは「ネット見て電話したんですよね? フジテレビを支持しております」という花王の電話対応があったことを、調べもしないで記事を書くな、という批判的なものでした。
これだけネットで騒動になっているのですから、電話対応の一件については知っていました。しかし、あえてその件については触れませんでした。その理由は、以下となります。
■「ノリ」「勢い」「一体感」に違和感
まず、フジテレビが韓流ドラマをたくさん放映していることに対する意見については、いろいろあってもいいと思います。もちろん、批判的な意見があってもいい。でも、その批判の矛先が特定のスポンサー企業にまで及び、かつ「不買運動」にまで発展していることについては、疑問に思わざるをえませんでした。
商品を製造・販売する企業に対して「不買運動」を起こせば、起こした側にも重大な責任が生じます。仮に、「不買運動」によって商品が売れなくなり、企業活動にマイナスの影響が出た場合、その影響はそこで働く多くの人びとにもおよびます。そういう過酷な状況も想定し、引きうけ、覚悟したうえで、「不買運動」を起こすのであれば、私には何もいうことはできません。でも、ネット上での花王に対する「不買運動」には、そういう想定や覚悟があまり見うけられず、「ノリ」や「勢い」で花王にクレームをつけているものが多いように思えました。
さらに、過酷な状況が起きうるようなことを自覚していれば、花王の電話対応を「ネット情報」として鵜呑みにするのではなく、自らが花王に電話をかけて、その対応を自分の耳で確認したうえで、つけるべきクレームをつけるというのが筋なのではないでしょうか。しかし、ネット上で花王にクレームをつける文章や、アマゾンレビューに低得点をつけているようなレビューには、花王に電話をしていないし、花王の商品を使ってもいないのに、「ノリ」や「勢い」で、妙な「一体感」を楽しみつつ、花王を責めているようなものが多いように感じました。
花王にクレームをつけている人のうち、どれだけの人が実際に電話をかけたり、商品を使っているのか、私にはわかりません。それを知っているのはクレームをつけているご本人のみ。「電話をかけた、かけなかった」「商品を使った、使っていない」という水掛け論になってしまうので、これ以上は触れません。
■やはり「花王」は偶然選ばれたのでは
次に、テレビ局の番組編成が気にくわなかったり、番組自体が気にくわないからといって、「そのこと」について局のスポンサー企業にクレームをつけるのはどうか、という思いがあります。テレビ放送が地上波デジタルからBS、そしてCSも含めて多チャンネル化するなか、視聴者が気にくわない番組編成や気にくわない番組など、いくらでもあるかと思います。
にもかかわらず、「そのこと」が気に入らないからスポンサー企業を叩くといった話は、ほとんど聞いたことがありません。そういう意味で、今回のフジテレビおよび花王の事例については、高岡さんが火をつけたことによって偶然起きたことだ、と私は認識しています。
さらに、今回は電話対応が悪かった花王が叩かれることになったものの、もし他の企業の電話対応が悪ければ、その企業が花王と同じように集中して叩かれていたのではないか、と私は考えています。ようは、叩く企業はフジテレビのスポンサー企業ならどこでもよく、今回はたまたま電話対応が悪かった花王が選ばれたのではないか、と私は推測しているのです。花王を叩く正当性を主張する方には、なぜ他のスポンサー企業は花王と同様に叩かないのかも、一緒に説明していただきたいところです。
■記事の論点、そして論点の裏側
以上で記したことのほかに、「花王の電話対応」について記事で触れなかった理由で最大のものがあります。それは、これだけネットでフジテレビと花王に関する情報が出回っているのだから、花王の件について書かれた記事は「花王の電話対応」も前提になっている、ということです。記事を読んでご批判なさる方々が、口をそろえてそのことを指摘なさっていること自体が、その証拠となっています。
事情をくわしく知らない方には、不親切な記事であったかもしれません。しかし、花王にクレームをつけている方々には、「花王の電話対応」を前提にして、あえてあのような書き方をしていることは、ご理解いただけていることと察しています。
記事の論点は、ただひとつ。「ノリ」や「勢い」を元に、妙な「一体感」を楽しみながら、たまたま選んだ一企業を叩くのは、ちょっとやりすぎなのではないか、ということです。その論点の裏側には、自分がやっていることが、ある企業の活動にマイナスの影響をおよぼす可能性があることや、その企業で働く人たちが置かれる立場に影響がおこりうることまで想像してやっているのか、さらにそういう状況を引きうける覚悟があるのか、という問いかけを記事でおこなえれば、という思いがありました。
いずれにしても、いまとなっては「花王の電話対応」の一件については、記事のなかで触れておいてもよかった、と考えています。あの記事で、はじめて「フジテレビ・花王騒動」について知った読者には、不親切であったかもしれません。ご指摘いただいた方々に感謝するとともに、ご意見は今後の原稿執筆の参考にさせていただこうと思います。
日乗
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