2014年5月 4日 (日)
『旅するバーテンダー』製作秘話 その2
店の名は「DORAS」(ドラス)。スコットランドの言葉で「扉」を意味するそうです。
店のたたずまいは、けっして一見では入れるようなものではありません。重厚というか、隠れ家的というか……。しかし、紹介してもらった勢いで、思い切って入りました。たしか、深夜の1時か2時だったと思います。
店の内部はとても暗く、光っているのは最低限の光量にした照明とろうそくの明かりのみ。BGMはオペラ。カウンターの中にいるバーテンダーの中森さんは、ほとんど言葉を発しません。正直、最初は「まちがった場所に来てしまったのかも……」と思いました。
とはいえ、他のお客さんがいなくなると、少しずつ会話が弾むようになり、打ち解けていきました。
中森さんは、私よりも10歳ほど年下であること(私は最近、50歳になりました)。
浅草で生まれ育ったこと。
ガレージを改装して、現在のお店になったこと。
大学を出てから酒屋さんで働き、その後、いくつかの店でバーテンダーの修行をしたこと。
などなど。
驚いたことに、当時の中森さんは、バーテンダーをやりながら、プロのシュートボクサーとしてリングに立っていました。また、店の定休には、いまでもサーフボードを車に積んで海に出かけています。
店のカウンターの中にいる中森さんは、生真面目で冷徹な人だという第一印象を持ちました。しかし、その素顔はひょうきんなところもあり、店の客としての私は、彼に対して好印象を持ちました。
出逢ったその日に、「おもしろい人だなあ」と私は思いました。
〈つづく〉
『旅するバーテンダー 〜浅草発。究極の一杯に向けてヨーロッパを駆ける』
中森保貴 著
本体 1800円
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